プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第81回

社長、それではプロジェクトは失敗します。
 (その2)いったん依頼したら、欠席裁判無しです。

前回は「プロジェクトを丸投げすると失敗する」をお伝えしました。そもそもプロジェクトには日常業務とは異なる難しさがあります。異なるからこそ、チームを編成したうえで期間を限定して取り組むわけです。誰がやっても難しい要素をもっています。とくに難しいことは、プロジェクトの目的や最終成果物の伝達です。発案者としてはどういう理由で何をどうしたいのか、これらを的確に伝えることが最初の難関となることを説明しました。丸投げとは伝達や説明がきわめて不十分な仕事の任せ方を指しています。基本的に良くないやり方であり、プロジェクトの場合は厳禁であることを説明しました。今回は、プロジェクトをいったんは任された部下のやる気を無くす「欠席裁判」について述べることにします。

【1】欠席裁判 筆者の体験
これは当事者や代理人が出席しないまま、または意見を述べられないままで行われる裁判のことです。もちろん、国民主権の民主主義国家であるわが国ではこのような裁判は通常はありえません。従って、我われがごく普通に使う意味としては、その場にいない人物に関して不利な決定をすることを指しています。

前回、筆者の入社3年目ごろの体験を述べました。通常業務の他に設備投資案件として、増産対応、難作業の機械化、職場環境改善などをかかえていました。当時はとくに設備投資が集中した時期でした。結果として日常業務の他にこれらをすべてこなすことは無理でした。難作業の機械化という案件が手つかずのまま残りました。後回しにし続けたので時間ギレになりました。前回、ここまでを紹介しました。

しばらくして、課長から「あれは投資計画から削除した」と伝達されました。まさに伝達、という感じでそれだけでした。来年度になったら再チャレンジするのか、今年度に誰か代わりの人がやるのか、それとも計画そのものが消え去るのか、何も知らされませんでした。これには当時の筆者にも落ち度がありました。どう進めてよいかわからないので助けが欲しい、手一杯だから他の人に肩代わりしてもらいたいなどを先輩や課長に相談すべきだったのです。こういう落ち度がありましたから、課長の伝達を聞くだけでした。計画から削除された事情をたずねることはできませんでした。

【2】上司の立場で同じことをやってしまいました!
それから10数年後、工場から異動になり本社で課長を務めていました。ベテランの部下に、ある課題の検討を依頼しました。数人いた課員の中から彼を選んだのは、関係する領域の経験もあり、他部署からの情報収集も問題無くこなせると考えたからです。ところが、2週間くらい経っても何の音沙汰も無いのです。業務日報の習慣が無かったのが失敗だったと思いましたが、仕方が無いので筆者自らが関係部署に情報収集を始めることにしました。

まもなく彼から苦情がありました。課長(筆者)と部下(彼)がほぼ似たようなことを依頼していました。依頼先から「どちらかに一本化してほしい」と言われたのだそうです。彼の苦情はもっともなことでした。筆者は10数年前に彼と同じ体験をしたにも関わらず、その教訓がまるで身についていないことを思い知らされました。

【3】任せることはつねに重い
これに少し付け足すと「・・つねに重い責任がある」となります。責任があるのはもちろん任せる人、社長です。社長は思い付きだけで、プロジェクトを誰かに任せてはいけない。うまくいかなかったときは、本人がやる気をなくすかもしれません。
もっと悪い結果もありえます。任せてしばらく経っても何の知らせも無い。それだけで「やめてもらう」を社長自らではなく、他の人から伝えさせる。欠席裁判ですね、最悪と思います。たんなる思い付きだけでプロジェクトを誰かに任せることは、やめましょう・・。とはいえ、社長の思い付きには捨てがたい面があります。

【4】思い付きを活かすには
社長の思い付きは、他の人と異なり冴えたものが多いように筆者は感じています。思い付きをうまく成功させることを考えてみましょう。Aさんにプロジェクトを任せることを思い付きました。そのプロジェクトの最終形を考えてみます。Aさんならできるという部分と、ここはどうかなという部分、双方があるはずです。そのうえで、少し不安はあるが任せてみようとなるかもしれません。また、やはり任せるのは時期尚早だなという結論になるかもしれません。社長がこういうプロセスのもとで、思い付きを実行されるなら、前回取り上げた丸投げにはならず、かつ欠席裁判も起こりえないでしょう。