プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第127回

プロジェクトのゴールはどのように見えるのか DX時代のプロジェクト(その11)

前回は、わが国社会の少子化・高齢化の影響として働き手の人口はどうなるかを二つの指標で紹介しました。よく知られた生産年齢人口については、わが国では1990年代がピークでそれ以降は下がり続けています。しかし、実質的な働き手を示す労働力人口という指標では別の傾向がありました。とはいえ、わが国の働き手が減少していく傾向は変わりません。働き手確保が難しくなる情勢からも生産性向上は真正面の課題であることを述べました。前回の終わりにわが国は世界的に見て中小企業の比率がきわめて高いが、これこそがわが国の多様性のもとであり、失ってはならないものであると強調しました。
今回は、中小企業の比率がきわめて高いことに対するイギリス人経営者による改革案について筆者の考えを述べることにします。

【1】日本経済の最大の問題は中小企業という見解
日本で中小企業を経営されているイギリス人デービッド・アトキンソン氏は、持論として日本経済の最大の問題は中小企業にあるとの見解を著書や大手メディアで様ざまに発信されています。中小企業とは、製造業などでは従業員300人以下、サービス業では100人以下の企業のことです(ここでは概略のみです)。企業数で言えば、わが国のほとんど(99.7%)の企業は中小企業です。大企業や中堅企業はごくわずかなのです。従業員数でみると中小企業の従業員数は全体の約70%、付加価値額では全体の約53%だそうです。

出典 2021年版中小企業白書(中小企業庁)による。


アトキンソン氏の分析では、中小企業は労働生産性において大企業とは大きな差がある。これが根本的な問題であるとされています。上記の白書から、労働生産性を従業員一人当たりの付加価値額として計算すると、確かに中小企業は大企業の半分弱になりますからアトキンソン氏の分析は間違ってはいないのでしょう。図は、2003年~2020年における労働生産性の推移です。2020年度の製造業で見ると大企業(1180万円)、中小企業(520万円)となっています。

図 企業規模別 従業員一人当たり付加価値額(労働生産性)の推移

出典 2022年版中小企業白書 第6節 労働生産性と分配


【2】主張は「貴重な働き手をムダ使いするな」
従業員数で大企業は全体の31%を占めていますが、付加価値額では全体の47%を生み出しています(白書2021年版から)。わが国ではこれから労働力が減少していきます。「貴重な働き手をムダ使いするな」ということなのでしょう。分析は正しいようですから、労働力をムダ使いするなという主張は分析に沿った結論として理解できます。続けて、次のような見解を示されています。

国家(日本政府)の政策として中小企業を保護してきたが、それはもう時代にあわなくなったと主張されています。少子化・高齢化に伴う社会保障費の増大も避けられず、必然的に「中小企業改革」につながる。これは現在360万社ある中小企業を200万社弱に統廃合することになると説明されています。わが国では、このような論議はあまり聞かないようです。タブーとは言いませんが、話題としてとり上げたくない雰囲気はあると思います。そこを真正面からから切り込んだ姿勢は評価できます。わが国の経済評論家の方々から、このような見解が無かったことは少し不思議な感じがします。

【3】欧米はボート経営 わが国はおみこし経営
本連載では両者の差異について、これまでも数回にわたりとり上げてきました。言うまでもなくわが国の経営スタイルはボート経営ではありません。アトキンソン氏の主張、現在360万社ある中小企業を200万社弱に統廃合すること、これはまさにボート経営の典型的なやり方です。ボート経営においては、漕ぎ手たちはひたすら艇長の指示に従うだけで進む方向は見せてもらえません。そういう意味で欧米の経営者であれば、きっと同感や共感されることでしょう。

しかし、このようなばっさりとしたやり方は合理的ではあるかもしれませんが、わが国で納得されることはないでしょう。わが国では、そうは言っても何かもっと別のやり方もあるのではという考えがあります。しかもそのやり方にしても「いろいろあるはずだ」、つまり、おみこしの担ぎ手たちそれぞれに意見や言い分があります。つまり、アトキンソン氏のばっさり論(一元論)に対して多様な考えがあります。多様性こそがわが国の特徴です。おみこしの行進は、あっちに行ったりこっちに戻ったりで必ずしも効率的な動きではありません。しかし、効率的でないかわりに多様性、つまり様ざまな意見があります。これから大きな変化の時代にあっては、ここに大きな意味があると考えます。本連載の前回で、多様性の効用を次のように紹介しました。

【4】世界が称賛する日本の暮らし
これは、ニューズウィーク日本版(2022.8.16発行)の特集記事でした。治安、医療、食文化、教育、住環境、・・日本人が気付かない日本の魅力 日本をよく知る16人の外国人に聞いた 外国人が証言する暮らしやすい日本・・このような記事が掲載されました。

筆者の読後感として、このような暮らしやすい日本を支えている背景に中小企業の存在があるということでした。この点についても「日本人が気付かない」ということは共通しています。日本人だけでなく、外国人もたぶん気付かないだろうと思います。これらを代表すると、わが国の多様性ということが背景にあります。この多様性は、我われ日本人には空気のような存在ですが外国人からみると驚きなのですね。

わが国には八百万の神さまがあります。一神教の欧米とは比較できません。現在の企業数360万社が多過ぎるから整理統合を考えるのは、いかにも一神教らしいな~と感じます。我われとしては、八百万を基準に時代にあった改革を考えていく必要があります。