プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第95回 番外編

番外編(1) 論理的思考を常識にする

前回まで番外編を含めて6回ほどにおいて、リクツという言葉が重要なキーワードとして出てきました。論理、整合や筋道が通るなどと置き換えて使っていました。しかし、リクツという言葉はリクツっぽいとかリクツが勝ち過ぎているなどといった否定的な意味での使い方が多いように感じます。ただ、同じことを「論理的思考」と置き換えると、否定的なイメージは無くなります。そのかわり、やや硬い感じがするので敬遠されそうな雰囲気は残ります。
とはいえ企業の組織運営などをはじめとして全ての活動において、論理的思考は欠かせないことです。
そこで、今回から4回の予定で番外編として論理的思考について扱うことにします。まずは、業務で論理的思考を常識にするためどのような機会があるかについて述べます。

【1】通常の業務を通じて論理的思考を身につける
製造業に限りませんが、ビジネスにおいて「コスト」は誰にでも共通する話題です。例えば製造に必要な消耗品で価格の安いものを選ぶ、これはよくある普通のことです。ここから一歩踏み込んで、寿命(耐久性)に対しての価格を比較してみることにします。価格は2倍だが耐久性は3倍あるとしたら、価格の高いほうを選ぶほうが得になる。これは損得勘定(損得計算)と呼ばれる分野の一例です。購入単価そのものではなく、耐久性当りの単価で比較することは、りっぱな論理的思考と言えます。仕事には、このような一歩の踏み込みがあらゆる場面で必要となります。カイゼン活動は、基本的に論理的思考を身につける絶好の環境と言えます。論理的思考を身につけるためには、仕事を通じて、つまりOJTが基本になります。カイゼン活動のような職場の環境を上手に使っていくことが大きなポイントになります。

【2】プロジェクトは必要なことだけをやる
プロジェクトはカイゼンほど日常的なものではありませんが、論理的思考が要求されることは変わりません。多くの企業では、定常的では無いことに対処するためにプロジェクトというかたちが採用されます。一時的な組織ですから、通常の業務をもつ人たちが集まってチームをつくります。全員が通常業務をかかえたままプロジェクト活動にも時間を割くことになります。従って、プロジェクトの発案者としては、あれもこれもやりたいという要望はあってもごく限られた時間しか使えません。そのため、プロジェクトはギリギリ必要なことしかやらない、これが大前提となります。「良い機会だからついでにこのプロジェクトでよろしく」、これはダメです。ひとつを受け入れると、キリなく増えることにもなりかねません。本当に必要なことであれば、そのためのプロジェクトを起すか、または業務の一環として指示または命令することが組織運営の基本となります。

【3】プロジェクトはゴールから考えていく
プロジェクトはギリギリ必要なことしかやらないと述べました。このためには次のように、まずゴール(最終の成果物)から考えるとよいでしょう。自己流や思い付きなどでやるよりもずっと的確なやり方、結果的に論理的な思考ができます。

プロジェクトのゴールを明らかにすることは、プロジェクトにとってきわめて重要な課題です。ゴールとは最終の成果物のことです。これを考えることはプロジェクトを立ち上げる目的そのものを考えることになります。そして、これはしばしば難しい問題になります。

お薦めのやり方は、本連載でもおりにふれ紹介してきました。再度、次に説明図を掲載します。事例は営業部員が顧客先で商品説明会を開催するプロジェクト計画です。

図 プロジェクトのゴール(最終の成果物)から考えていく

まず、ゴールは商品Xの受注、説明会の目的としてこれは間違いない!
次に、受注のためには説明会での効果的な展示物が必要だな。
そうすると、これらの展示物を使ってプレゼンするシナリオも欠かせない。
・・・(以下、略)


以上のようにプロジェクトの最終成果物から考えることは、論理的なアプローチと言えます。プロジェクトに限らず最終成果物からアプローチするやり方は、論理的思考のための良い手順になります。

【4】全ての業務で論理的思考を磨く
カイゼンやプロジェクトなどの活動に限らず、定常業務においても論理的思考でアプローチすると、DX化やテレワークなどへの移行が円滑にできるとともに移行後の業務の安定にも役立ちます。これまで述べたカイゼン、プロジェクトなども含めて着眼点を整理しておきます。

カイゼン活動・・損得勘定などの考え方で踏み込む
プロジェクト活動・・最終成果物から時間を逆に(将来から現在の方向で)考えていく
定常業務・・プロセスの入口と出口までの構成を(ムダやモレは無いか)チェックする


論理的思考を常識にするためには、特別なセミナーを構えることは必ずしも必須ではありませんが、相応の仕掛けや工夫は必要です。すべての社内会議などで、上記で紹介した着眼点などを見つけ出すと良いきっかけになるのではないでしょうか。

次回は、番外編として「全体観」について述べることにします。第94回で述べた「全体を俯瞰する」などと同じ趣旨で、論理的思考をサポートするものを紹介します。