プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第92回

社長、それではプロジェクトは失敗します。
 (その11)リクツを通すなら完全でないとダメです。

前回は、「ぎを言うな」という筆者の出身地の方言を紹介しました。これは合理性や論理性を忌み嫌って避ける悪い習慣でした。もうひとつは、東京都知事の提起した二つの施策の差異を比較してみました。リクツの通りやすさが都民からの支持の明暗を分けることになりました。大目的で異論は無いとしても、具体的な方策で「無理だよね」と受けとられたらリクツが通らないことになります。
リクツは通っているけど中途半端であり完全ではない場合、これもやはりダメですからプロジェクトは失敗します。今回は、このような状況について述べることにします。

【1】小出しにして失敗した構造改革
筆者が在籍していた当時のことです。日産自動車は長期にわたり業績が低迷し、構造改革(リストラ)の一環として、1995年に座間工場(神奈川県)を閉鎖しました。発表したのはこれより前の1993年でしたが、従業員にとってはやはり大きいショックがありました。ついに来るべきものが来たかという感じがしました。しかし、これで業績が好転する見込みは全く感じられませんでした。ただ、将来に対する不安だけがさらに大きくなる雰囲気でした。これがリストラの始まりであることはわかっても、先行きどうなるのだろうと不安が募りました。リストラがこれだけで終わるとは思えないし、終わったときはどういう将来像があるのだろうと疑問をもたざるをえませんでした。後で聞いたことですが、原案では座間工場と村山工場(東京都)の閉鎖を同時に発表することになっていたのだそうです。影響が大き過ぎるとして、このときの発表では座間工場だけにとどめたということでした。業績回復の方向として、工場閉鎖は当然必要なことでした。しかし、小出しにしたため、先も見えず不安が募る結果だけが残りました。

【2】ゴーン改革は完全な構造改革を実行した
日産のゴーン元CEOは、1999年にルノーから日産にCOOとして着任しました。まもなく、大規模な構造改革を日産リバイバルプラン(NRP)として発表しました。

(1)工場閉鎖については、次のように5つの拠点に及ぶ大規模なものでした。
   車両組立工場閉鎖(’01/3月までに) 
   ①村山工場  ②日産車体(株) 京都工場 ③愛知機械(株) 港工場
   基幹部品(エンジンなど)工場閉鎖(’02/3月までに)
   ④久里浜工場 ⑤九州工場

(2)さらには、収益改善に即効性のある方策がありました。
   ・購入部品など3年間で20%の原価低減活動

(3)そして、これらの活動を推進する組織体をつくりました。
   ・方策ごとに部門横断のプロジェクト(CFT)の立ち上げ

(4)これが最も重要なことですが、達成すべき三つの目標を掲げました。
   ・2001年度に黒字にする
   ・有利子負債を7,000億円以下にする
   ・売上高利益率を4.5%以上にする

具体的でリクツが完全に通っています。従業員として難しくはあっても希望をもってチャレンジすることができました。

【3】義務化が必要となる完全なリクツが無い
東京都の太陽光発電設備の設置義務化の条例案については、都民にとって最も気になる(負担を伴う)ところだけが明示されているのに、完全なリクツが何も語られていません。本連載の第89回でも述べましたが、住宅を新築するとき太陽光発電設備を設置したほうがトクになる、こういう制度設計が必要です。

余談ですが・・。
現在のFIT制度(固定価格買取制度)の発端は2012年民主党政権時代につくられました。外資規制も何も無かったので、粗悪なやり方の事業者が乱立し国民(家庭)から電気料金の一部として納めた税金が外資系企業をも潤すことになりました。ちなみに筆者の自宅では電気料金の一部として、現在も年間約一万円を「納税」しています。太陽光パネルの設置場所に何の制限も無かったので、農地、浜辺そして急斜面の土地などにパネルが乱立することになりました。それが土石流などの災害を引き起こしているのはご存じのとおりです。

今回の都知事案では設置場所は住宅に限定されています。これはあるべき姿です。筆者としては、設置は住宅やビルなどの建物に限定すべきと考えています。都知事案にはこのような改革要素が含まれています。完全なリクツが通る修正案を期待しています。

【4】完全なリクツを構成する
リクツは通っているけど中途半端であり完全ではない場合、やろうと思ったことが裏目に出るリスクを招きます。思い付きだけではダメですと述べましたが、経営者の思いつきは良いポイントであることが多いのです。完全なリクツを構成するために、実現のシナリオあるいはプロセスに思いを巡らすことがリスクを回避します。