プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第74回

あったらいいねと考える経営
 ~設計リードタイム短縮は設計改革への道(その7 最終回)

前回は組織の次元上昇の好例として、20年以上前に業績の奇跡的なV字回復を実現した日産のゴーン改革を取り上げました。ここでは従業員が改革の必要性を痛切に感じていた組織環境だけに頼ることなく、人材を発掘し育成する仕組みを経営のルーティンに組み込んだことなどを紹介しました。とはいえ、この改革では大きな負の側面も伴いました。長期間にわたりトップの座にあり経営の舵取りをすることは、古来、創業よりも難しいとされてきました。しかし、多様な人材を輩出し風通しの良い組織にすることが本質的な難しさを解消するカギであると古典からも読み取れます。
今回は、設計リードタイム短縮は設計改革への道(その7)最終回です。改革のためにはどうしても必要になるもの(必須条件)と「あったらいいね」とに分類できることを述べます。合わせて、この分類と経営トップが腕を振るう大きな絵の構図についての関係も考えることにします。

【1】設計改革のための必須条件とは
設計改革への道として、第1回は「チームに規律を」でした。この回を初めとして、次のようなことを述べてきました。第4回までを振り返ってみます。

(1)チームに規律を
議論や討議を尽くして出た結論には全員が納得して目標を達成するための行動を起こす。そして、望ましい結果につなげる。

(2)進ちょくを見える化する
進ちょく会議はストレスを増すだけの責任追及の場になりやすい。進ちょくを客観的指標によって見える化ができれば、会議は不要になる。

(3)これからはリーダーの時代
テレワークが当たり前になると、自主自律的な働き方が必要になり、自然な成り行きでマネジメントフリーの方向に進む。マネージャーは組織をうまくまわす人、リーダーは改革や変革を推進する人、とするとこれからはリーダーの時代になる。職位に関わらず、リーダーシップを発揮してもらうことが必要になる。

(4)メンバーのパワーアップ
メンバーのスキルアップをOJTだけに任せず、組織的な取り組みをおこなう。そして、スキルアップをパワーアップにつなげる。さらに自動化設備の導入などの大きなイベントをきっかけにして、パワーアップを組織の次元上昇につなげることができる

これらは、どの項目をとっても「改革」のためには程度の差はあってもどうしても必要になるもの、必須条件と言えます。これに対して、考え方しだいで必ずしも必須条件ではなさそうなものがありました。

【2】必須条件ではないが「あったらいいね」とは
第5回と第6回では、次元上昇について述べました。

(5)次元上昇はジクソーパズルの感覚で
「我われの組織は従来とはもう次元が違うんだよね」という実感を全ての役員と従業員が持つ状態が次元上昇である。これはジクソーパズルの感覚で、大小さまざまなイベントをパズルのピースに見たてて大きな絵を目指すようなことになる。

(6)多様な人材を輩出する
創業よりも守成のほうが難しいとすれば、風通しの良い組織であることが必要。そのためには次元上昇の状態で多様な人材を輩出し易くすることが欠かせない。

次元上昇は、設計改革のための必須条件とは異なります。どちらかと言えばとらえどころがありません。分類すれば「あったらいいね」でしょう。つまり無くても良いのです。しかし、わが国の特長である全員参加型のおみこし経営とは相性が抜群に良い感じがします。トップリーダー主導型のボート経営とは明らかに異なります。ボート経営では、無くても良いものはあり得ません。つまり、効率の面から許されません。

【3】多様性を活かすおみこし経営
次元上昇のもとで、ジグソーパズルの大小のピースを集めて大きな絵を目指します。大きな絵の構図は経営者自らが腕を振るうことになると述べました。大きな絵とその構図は次元上昇というとらえどころの無い考えに基づいています。従って、構図を描いたとしても必ずしもそのとおりにはならないという前提になります。

欧米ではごく普通のボート経営は一見して合理的なように見えますが、必ず破綻するシステムです。主因は多様性が無いことです。変化対応ができず一代限りの経営と割り切っているようです。わが国は異なります。経営スタイルとしてはいわゆる三方良しです。長寿企業、つまり変化に対応して存続することに大きな価値があると考えます。そのような企業の歴史では泣き面に蜂もあれば、うれしい悲鳴という状況もあります。

【4】あったらいいねと考える
状況として、時に棚から牡丹餅ということもあります。思いがけない幸運が舞い込んでくるという筆者の好きな諺です。これについて会社の上司から「棚に牡丹餅があるのに全く気づかない人がいる」と聞いたことがありました。ゆるさも大切と言いたかったのだと理解しました。
改革のための「必須条件」とは異なり、「ゆるさ」は改革活動とは矛盾する感じがします。しかし、多様性とはゆるさや不整合は当たり前のことであり、それらを受け入れることに他なりません。従って、経営が目指すべき大きな絵とその構図についても「あったらいいね」くらいに考えてよい、筆者はそのように考えています。