プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第68回

チームに規律を ~設計リードタイム短縮は設計改革への道(その1)

前回までは番外編2回(第66回第67回)、その前は「テレワークで少数精鋭を目指す」について3回(第63回第64回第65回)にわたり説明してきました。今回から「設計リードタイム短縮は設計改革への道」をお届けします。
筆者はプロジェクトマネジメントを基本にした設計マネージャー向けの公開セミナー講師を務めています。そこで受講者の皆さまの最大の関心事は納期を守ること、つまりスケジュール遅延をどうしたら解消できるか、これに尽きるようです。これを突きつめると、設計リードタイム短縮という課題になるでしょう。そこでこの連載では、改革リーダーの方々を対象に「設計リードタイム短縮」の課題を中心にしながら設計改革への道を説明していきます

【1】コロナ禍で世界が急速に変化している
ビジネスでの急速な世界的変化の好例がテレワークの導入です。東京都産業労働局の報告によると次のような状況です。(2021年2月)

・・東京都におけるテレワークの導入率は、初めての緊急事態宣言が発令された2020年4月以降、一貫して50%を上回っており、従業員規模が100人以上の企業では約7割以上がテレワークを導入しています。

この1年ほどで導入率は50%から70%へアップしたそうです。いわゆるDX化(デジタル変革)の波はEC(電子商取引)を加速させることでしょう。リアルな交渉無しで新規顧客と取引ができる、そういうビジネスの世界が現実になりつつあります。製造業の要となる設計チームの改革は、このような変化に対応するためにも欠かせません。

そうは言ってもあわてて対応する必要はありません。この際、現在の問題点の解消だけでなく、かねて考えたことの無い少し先(将来)のことも考えてみたいですね。でも、まずやることとして改革活動のための準備があります。筆者は、皆さまよくご存じの5S活動を推薦します。

【2】設計チームの5S活動 初めは3Sから
わが国の製造やサービスの現場における5S活動は、職場の自主自律的な活動により清潔な職場をつくりあげます。そして、最終的には職場の規律(躾)を生み出します。これはわが国発祥の世界に誇るべき、きわめて優れたシステムです。
5S活動のうち、最初から三つは整理・整とん・清掃です。設計チームもぜひこの活動をそっくりそのままやりましょう。毎週1回など終業前の時間を割いて全員でやるとよいですね。
各自のデスク、共用のデスクや作業スペースをすっきりとさせ不要なものは捨てる。ファイルキャビネットなどの整とんはルールを決めて扱いやすくする。実験設備や工具など、次に使うとき足りないものがないようにつねに揃えておく。
職場や自分のデスクがすっきりしていると、気持ちが良いしやる気になります。難しいことは何もありませんが、ただひたすら継続することが重要です。チームの決め事にすれば無理なく続けることができます。継続は力なり、これを実感できるようになります。

【3】4つ目のSを何にするか
製造の現場では4つ目のSは「清潔」になります。清潔な職場環境ということですね。設計チームにおいてこれでも通用しますが、設計にもっとぴったりしたものが欲しいところです。
筆者はここを「標準」としています(セイケツのように、とくにサ行の言葉にこだわりません)。標準作業、つまりメンバーの誰であっても同じプロセスで設計し実験確認も同じ手順に従うということです。設計業務はその作業段階で人によってけっこう差異があったりします。経験の差によって属人的になることもあります。誰がやっても同じプロセスで同じ作業に統一することは、(チームの状況によって異なるにせよ)かなりの時間を要します。このような「標準」ならもうやっている、つまり設計業務に属人性は皆無であるということなら何か他のものにしましょう。

ということで、4つ目のSを決めました。最後のSは「規律」です。規律は何のために必要なのでしょうか。もちろん、規則でがんじがらめにしたいわけではありません。

【4】チームに規律を
設計改革の難しさのひとつとして立場によってあるべき姿や取り組む方向性が様ざまに異なることが多くあります。つまり、議論百出といった状況になりやすいのです。経営者としても当然のことながらやりたいことがありますが、無理をして裏目に出ることもあります。

そこで望まれることはチームの規律です。議論や討議を尽くして出た結論には全員が納得して目標を達成するための行動を起こす。そして、望ましい結果につなげるという規律です。
このような規律がチームに備わることにより、時代の変化への対応がより容易になるでしょう。チームの規律を醸成するために、わが国に自主自律的な5S活動が存在する。まさに願っても無い資源と言えます。今そこにある資源を上手に活かす、これこそがわが国らしい行き方ではないでしょうか。