プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第63回

テレワークで少数精鋭を目指す(その1)

前回は、おみこし経営での少数精鋭についてとり上げました。純粋な少数精鋭は映画や小説などフィクションの世界だけのことであり、自動車業界の優れた業績はすべて総力戦であったことを紹介しました。そして欧米式のプロジェクトは少数精鋭と共通する仕組みをもっており、わが国のプロジェクトの運営はどのような優れた特長があるかを述べました。
今回は、少数精鋭の続きです。コロナ禍で普及しつつあるテレワークが少数精鋭への道につながるのか、その可能性を探ります。

まずはテレワークにおける組織の空気についてです。

【1】おみこし経営における組織の空気
わが国の「組織の空気」にはなかなかややこしいところがあります。空気が読めないととんでもない反発があったりします。空気を破ることはたとえ組織のトップであっても、ひと手間かけないと難しい面があります。ボート経営の場合は、トップとしては組織の空気などにはお構いなく自由に指示命令ができます。おみこし経営の場合は組織の空気がネガティブに作用するとき、それをどう克服するかという問題があります。
ところが、テレワークをやってみるとこのような「組織の空気」と似ている「職場の空気感」が無いことが致命的に困るという反響があるようです。無くなって初めてそのありがたさがわかる、ということでしょうか。

【2】テレワーク職場には空気感が無い
知人のコンサルタントから聞いたことです。彼は様ざまな企業を訪問します。訪問日にはミーティングで関係者全員と顔を合わせるが、それ以外の日は企業の皆さんはテレワークをやっている。ここ最近、テレワーク勤務の20~30代社員の退社希望が増えてきたというのです。そして、契約社員で店長やマネージャーなどの責任者クラスでも、退職者が増えているそうです。つまり「空気感の無い職場で」「責任感だけは感じるものの」「仕事をしている実感が無い」、こういう環境条件が退職希望や退職につながっているのではないか、これが彼の見解でした。
テレワークは始まったばかりといってよいでしょう。職場に空気感が無い、このようなテレワークの問題現象がここでひとつ発掘されました。これを解消すれば全てが解決するかどうかはまだわかりませんが、解決すべき問題のひとつが明らかになりました。問題がわかれば、解決のための課題が見えてくるはずです。

【3】あらためてテレワークの効用を考える
ここでテレワークについて考えてみます。

①働き手が減少中のわが国で、時間帯や場所の制約無しで仕事ができる
②働き手と雇い主のいずれにとっても、様ざまな働き方が選択できる
いわゆる「働き方改革」とはこのことだった、と筆者は実感しています。
(もちろん、わが国は国民主権の法治国家です。最低限の法令はお互いに守ることが前提です。誰であれ、野放図なことはできません。念のため確認します)
③働き手は自分の能力の多様化や最大化を自由に追求できる
副業解禁などという狭い考えではなく、マルチタレントやスペシャリストあるいは混合型などいずれでも自由に追求できることになったわけです。

以上について、筆者の結論はこうです。これまで一部の芸術家などだけで実践されてきたことが全ての人たちにもその気になれば可能になる。これは、人間社会の夢の実現ということではないでしょうか。テレワークはコロナ禍がきっかけになって始まりましたが、予想外の大きな意味をもっており、大きな価値を生み出すことになるでしょう。

【4】見えてきた課題
テレワーク職場の問題現象のひとつとして「職場に空気感が無い」があると紹介しました。テレワークはほぼ自動的にマネジメントフリー(管理不在)の職場に移行せざるを得ません。これもいやな上司と顔を合わせなくて済むといった側面は歓迎されるかもしれません。しかし、やった仕事の評価という側面はどうしても薄くなるでしょう。仕事のノウハウを伝えることも同様に希薄になることが避けられません。こういうことから、仕事のプロセスの標準化やマニュアルの整備といったことが思い浮かびます。これまでもしばしば話題になってきたおなじみの課題です。やはり、これらについてはあらたな観点をもって取り組む必要があるでしょう。あらたな観点とは、ガバナンス(規律)という企業経営の側面と働き手の能力の多様化や最大化といった側面があります。これらは「三方良し」の経営理念にも通じることになります。

職場に空気感が無い、この解消に取り組むことはテレワーク環境で少数精鋭を目指すための王道になると感じます。(続く)