プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第62回

おみこし経営での少数精鋭とは

前回は、組織内の多様な意見やアイディアを取り入れるおみこし経営における参謀的な機能について述べました。そもそもボート経営での参謀という役割はおみこし経営ではすわりが悪い感じがあります。また、おみこし経営には組織の空気に左右されるという傾向もあります。秀逸な意見であっても取り上げにくい雰囲気を、組織の活力を失わずにどう打破していくか工夫が必要です。様ざまな短所はあるにしても、それらをはるかに上まわるのはおみこし経営には組織に多様な意見がある、つまり組織の多様性という長所があることです。
今回は、参謀から連想するおみこし経営での少数精鋭について考えます。

【1】ミッション・インポッシブルはスパイアクション映画
これは、IMF(Impossible Mission Force 不可能作戦部隊)チームでそれぞれが特殊なスキルを持つ精鋭メンバーが集まって不可能な作戦を成功させる米国のスパイアクション映画でした。このジャンルの映画はヒーローひとりだけというスタイルが典型的でしたが、チーム活動という設定が新機軸となりヒットしました。ヒーローひとりの超人的な活躍ではなく、それぞれのプロによるチーム活動です。それがリアリティを増したのでヒットしたのでしょう。もちろん、これは映画や小説の世界だけと考えます。

【2】自動車業界の優れた業績はすべて総力戦
戦後、わが国の経済復興は目覚しく1965年には日米貿易収支は逆転し米国の赤字が拡大していきます。その後のわが国の自動車産業の成長と発展は、わが国の貿易収支を支える大黒柱になりました。そこで、日本発の画期的な技術として世界に誇れるものをとり上げてみました。

①1972年発表 ホンダのCVCCエンジン
当時、世界一厳しい米国排ガス規制法(マスキー法)は多くの自動車メーカーから達成不可能と言われていました。それをホンダは世界に先駆けて初めてクリアしました。
②1997年発売 トヨタのハイブリッド車
当時の省資源の流れにぴったり合致し大幅な燃費向上を実現しました。エンジンに電池とモーターを組み合わせた独自の動力装置として世界的な大ヒットとなりました。

いずれのケースも少数精鋭ではなく多数のメンバーによる総力戦です。
とくにトヨタのハイブリッド車の場合、自社のみでなくモーターや電池などの社外の技術者たちとのすり合わせにより、開発を成功させました。このような協力の仕組みは、欧米の自動車メーカーでは実践はもちろんのこと発想すらできなかったのではないでしょうか。

【3】プロジェクトは少数精鋭と共通する仕組み
プロジェクトマネジメントの教科書には、それぞれ分担する作業には必要なスキルをもつ人を割りつける、と書いてあります(通常、必要なスキルレベルが指定されます)。このようにプロジェクトでは必要な人数と必要なスキルが前提となっています。少数精鋭とプロジェクト、協力の仕組みという観点から両者の構造は共通しています。

社内プロジェクトの場合、必要な人数やスキルレベルをしっかりそろえることは容易ではありません。プロジェクト体験でスキルアップを狙うことにして、メンバーに組み込むことがよくみられます。おみこし経営の組織には多様な人材が必要ですから、このようなやり方が日常的に定着しています。問題解決や課題達成のために、プロジェクト活動を実践する。それが同時に人材育成につながる、おみこし経営の優れた特長のひとつです。

【4】少数という制約が精鋭を生むか
少数精鋭について字義通りは難しいが「少数だから結果的に精鋭になる」と言われることがあります。中小企業の場合はどの仕事であれ少数という制約がつきまといます。少数という制約が精鋭を生むか、生産年齢減少期にあるわが国においては企業規模に関わらず重要な経営課題です。その答は経営方針とそれに基づく的確な経営施策にあります。既に本連載で、とり上げてきたように働く本人たちの仕事への集中力を高め、組織の生産性を高めることはこれらがカギとなります。これまで、本連載で述べてきたことを次に列挙します。

・設計のマネジメントフリーは企業ガバナンスから(第56回
・経営のプロトコルを開発する(第51回
・組織の活力を維持しながらリーダーの論理を優先する(第42回
・多様性こそが日本の強み(第40回
・わが国は信頼の社会(第36回
・組織の多様性が企業の活力を生み出す(第31回


信頼の社会、多様性、リーダーの論理、経営のプロトコル、マネジメントフリーなどのキーワードが読みとれます。

次回は、本稿の続きです。必然的に少数(ひとり)で対応せざるを得ないテレワークについて述べることにします。