プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第53回

設計のマネジメントフリー(2)

前回は、設計のマネジメントフリーはなぜ必要か、それはテレワークが時代の潮流であるからという前提のもとで課題を解説しました。チームメンバーがリアルな職場にいないのですから、従来のようなマネジメントのやり方ではうまくいきません。そこで対処すべき課題として、進ちょく会議のあり方、能力と仕事量など二つの課題を取り上げました。今回はその続きとして、さらに二つの課題を解説します。悪い情報こそスピーディに経営陣に伝わること、そして顧客による仕様変更や仕様追加への対処、この二つです。

前回までに述べたことを踏まえて、マネジメントフリーの企業経営における位置づけをあらためて確認します。

【1】マネジメントフリーは時代の潮流
コロナ禍によってテレワークに取り組まざるを得なくなりました。しかし、テレワークはシステム開発企業などでは既に実践されていました。それは、企業の立地に関わらず全国から人材を確保できることが大きな魅力になっているからです。中小企業の弱みのひとつは人材確保です。この弱点解消のために、現在の状況は潮流を活用するまたと無い機会です。
また、テレワークはリアルの職場ではないので、必然的にマネージャーの存在感は従来よりも後退せざるを得ません。その分、職場の自主性や自律性を前進させやすい環境条件が整うことになります。このような職場環境では、改革や変革の役割をもつリーダーが生まれやすいと思われます。ここで、マネージャーとリーダーについて筆者は次のように使い分けています。

マネージャー:会社という複雑なシステムをうまくまわす役割をもつ人
リーダー   :改革・変革する役割をもつ人


コロナ禍が無かったとしても、現在は明らかに変革期にあります。そして、変革期により多く必要とされる人はマネージャーよりもリーダーのほうであることは間違いありません。

テレワーク → マネジメントフリー → 組織にリーダーが輩出する


マネジメントフリーにはこういった流れをつくり出すことも期待できます。テレワークの副次効果と言えるかもしれません。テレワークをコロナ禍におけるやむを得ない対応と考えるのではなく、改革や変革のための予期しなかったプレゼントにすることができます。まずは「悪い情報こそスピーディに経営陣に伝わること」についてです。

【2】悪い情報はそもそも伝わりにくい
日本のような文明国にはPL法(製造物責任法)があり、消費者保護のためリコール制度もあります。リコール制度の趣旨は、とにかく製造者や販売者が早期に情報提供することです。つまり、悪い情報ほど伝わらないことが背景になっていることがわかります。当然のことながら、早めに不具合がわかれば被害の拡大を防ぐことができます。
ところが、「早期に情報提供する」ことはなかなか難しい。設計に限りませんが、どこでもミスはつきものです。まずは自分で何とかできないか、または実質的な被害には結びつかないのではないかなどとあれこれ悩んでいるうちに時間だけが過ぎていく、このようなまずい状況が多く見受けられます。
テレワークの場合、ひとりだけの職場環境が基本ですからリアルの職場よりも「早期の情報」を得ることが一段と難しくなります。前回の進ちょく会議のあり方でも述べました。会議を「責任追及から問題解決へ」、この考え方が基本になります。
PL法やリコール制度の趣旨を経営陣自らがわかり易く伝えることも良いやり方になるでしょう。一例ですがクルマについて言えば、リコールを発表してもそのメーカーに対する消費者の信頼が揺らぐようには見えません。経営陣としてはミスを出さないための自動化や機械化などのための投資とともに、社内の関係者に対するさまざまな啓蒙活動が欠かせません。

【3】設計の現場に変更管理を
設計には依頼主からの仕様変更や仕様追加がさまざまに舞い込みます。その対処が設計チームに無用のストレスと工数の浪費などの問題を発生させています。プロジェクトマネジメント(PM)の「変更管理」の考え方がこの問題解決のための的確なお手本になります。
PMでは、顧客から依頼された内容についてその実行計画を「基準計画」としてつくりあげ、これを顧客と合意したところでプロジェクトの契約が開始することになります。基準計画には、品質、価格・費用や納期の他に仕様書(確定仕様書)なども含まれます。これを基点にして、これ以降の仕様変更や仕様追加はもちろんのこと前提条件の変更なども、すべて変更管理の対象となります。これらの変更について、協議のうえで合意することになります。採否を確認し価格・費用や納期の変更などを合意します。変更管理はPM業界では当たり前のプロセスとして定着しています。
設計としては、確定仕様書とセットで品質、費用・価格、納期などを約束することになります。変更管理に伴い、依頼主としても度重なる仕様変更や仕様追加は抑制されるようになります。この取り組みのためには、設計のみでなく営業の協働も必要になります。しかし、何よりも欠かせないことは経営陣の積極的な関わりです。変更管理のためには、相応の契約書も同時に必要になりますし、設計と営業のみでは対応に限界があるでしょう。主要な顧客には経営者による直接の説明や折衝が必要になると思われます。