プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第51回

経営のプロトコルを開発する

前回までの2回は番外編として「回り道でカイゼン」でした。それまでは「経営のプロトコル」について述べてきました。プロトコルとしてISOや5Sなどはよく知られたルールとして使われています。決め事として典型的なプロトコルであると述べてきました。とくに5Sについては世界の誰にでも開かれた透明性のあるシステムであると強調しました。今回は、この5Sに基づいて新たなプロトコルを開発することにより、社内プロセスの革新につなげる取り組みについて述べることにします。

【1】5Sを設計プロセスに適用する
5Sの優れた特長は、わかりやすくてシンプルな三つの行動(整理・整とん・清掃)、具体的な目標(清潔な職場環境)などが最終的には組織の規律(躾)を実現することにあります。これほど完成度が高くかつ多くの企業で採用されているマネジメントシステムは他に例が無いのでないかと思われます。
ただ、残念なことは適用対象がほぼ製造プロセスに限られていることです。ここでは、設計プロセスへの適用についてどのような展開があるかを考えてみます。目的は設計プロセスに必要なプロトコルは何かを見つける(開発する)ことです。そして、次には設計プロセスの生産性向上に結びつけることです。まずは、5Sにおいて4番目のS(清潔)に相当するものは設計プロセスでは何が適切なのかについて検討します。

【2】設計プロセスのマネジメントで最大の関心事は
筆者はプロジェクトマネジメントの研修講師を務めています。公開セミナーのタイトルはほぼ次の三つに集中します。

・納期を確約できるスケジュールマネジメント~合理的な2点見積もり法
・設計リードタイムの短縮~スケジュール短縮だけに頼らない
・設計部門マネージャー研修~責任者としての役割と具体的行動

これらを見ると設計プロセスの悩みや問題点がよく現われていることがわかります。納期や設計リードタイムが最大の関心事で、次はメンバーの育成といったことになります。もちろん、設計プロセスのマネジメントはこれだけではなく、品質確保や目標コスト達成といった重要項目もあります。筆者の場合はプロジェクトマネジメント(設計のプロセスマネジメント)からのアプローチになるので、納期や設計リードタイムが多くの皆さまの受講目的になっています。
従って、5Sの4番目として「納期確約」(納期を守る)は候補になりそうです。設計チームの目標として「納期確約」はぴったりだ、というチームが少なくないと思われます。

しかし、製造の「清潔」に比べると、マネジメント面でやや直接的過ぎる感じがします。設計の職場で「清潔」に相当するものはないのでしょうか。今後のビジネスの潮流としてDX化やテレワークなどがあります。そこにもヒントがありそうです。本連載の第24回第25回でのポイントを次にまとめました。

【3】テレワークで必要になること
1.テレワーク時代に要請される課題として次の三つをとり上げています。
業務成果物の明確化
業務プロセスの可視化
人材育成の通常業務化
結論として、「業務マニュアルの充実」が必須となります。

2.業務マニュアルの充実に取り組むため5S活動を活用することを述べています。
・中小企業の特徴として過小人員があり、いざというとき、機能不全を起す可能性がある。
・業務の引継ぎや移管を容易にする、業務プロセスの安定性や健全性を確保するためなど業務マニュアルの充実が欠かせない。

テレワークはこれからの時代、中小企業にとって欠かせない前提条件になります。時間や空間(居住地)を問わずに必要な人材を活用できるからです。現在のところ、さまざまな問題点が指摘されていますが、テレワーク実践と同時進行して解決していくことになります。設計や営業においてテレワークの取り組みが遅れると企業競争力をゆるがすことにつながります。

【4】「目標」(4番目のS)とは「マネジメントフリー」
テレワークでの最大の特異点は、指示・命令といったマネジメントが後退し現場担当者の自主性と自立的行動が大きな要素になることでしょう。製造現場の5S活動においても現場の自主性と自立的行動が中心になっています。テレワークは、図らずも似たような環境をつくってくれたことになります。
もちろん、テレワークであろうが製造現場であろうが最終的な組織の規律(ガバナンス)を確保する必要性は全く変わりません。テレワークの場合は、ガバナンスについてその企業の独自の項目を追加していくことになるでしょう(その過程でプロトコルとするものも見つかるでしょう)。

自主性と自立的行動が中心に、ということは上司によるマネジメントを極小にすることになります。マネジメントを極小に→最小に→無しにという流れがあります。最終的に目指すところはマネジメントフリーです。よくプレイイング・マネージャーと言う言葉が使われます。マネジメントを最小化すれば、設計プロセスのほぼ全員がプレイヤーです。メンバーの全てが設計業務に専念することができるようになります。