プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第44回

経営のプロトコル その実践

前回は、経営のプロトコルの役割を説明しその事例を紹介しました。プロトコルとは組織としての正規の手順、もっとシンプルには決め事でした。典型的なプロトコルとして取り上げたのはBCP(事業継続計画)でした。これが無ければ被災時の復旧が円滑に進みません。プロトコルは「それの有無」が重要です。つまり、社内の全ての関係者に知られている決まったやり方が「有るのか無いのか」、これがプロトコルの最も重要なポイントになります。今回はその実践の取り組みについて述べることにします。

【1】非常事態を想定する
前回のトップ画像を次に掲載します。


激しい風雨の中でビジネスパースンが通勤電車、タクシー、徒歩など移動手段をどうするかを考えながら歩いています。結論として徒歩に決めたようです。
非常事態においては自分で臨機応変に対応を決める必要があります。また、その手段の選択肢にも幅があることでしょう。移動しない(または出勤しない)という選択肢もあるかもしれません。非常時の対応を決めるときに、役立つ決め事(プロトコル)があれば時間をムダにせず早めに行動がとれます。それにより、起こるかもしれない被害を最小限にすることができます。

被害の最小化と言えば、自動車産業などに代表される組み立てラインでの非常停止の仕組みはまさにそのためのものです。不良品を次工程に流さないために、作業者が自らの判断でラインを停止できる。このような権限が現場にある。これはわが国のカイゼンの奥深さを示す一例です。誰もこれを経営のプロトコルなどと意識しませんが、優れた習慣が組織に定着しています。(これについては、別の機会に本連載で述べることにします)

どの業務のどこにプロトコルが必要かはそれを見つける努力が必要です。また、良い習慣が組織に定着するような取り組みが欠かせません。

【2】定着のためにタイムリーなイベントなどを活用する
前回、ゴーン改革における現場と経営トップの対話集会の事例を紹介しました。これは3か年計画キックオフなどの節目に開催されていたそうです。現場と経営トップのコミュニケーションの機会は、プロトコルの理解を深めるためにとても良い機会になります。
企業として特別な日、例えば創立記念日なども経営のプロトコルを確認したり、場合によっては新しいものを発表する良い機会になります。経営トップとしては、社長に限らず創業者による定期的な講話なども印象に残ることでしょう。

どのようなプロトコルを確認するか、製造業での品質対策を例として取り上げます。品質トラブルがあれば対策がとられます。新しい対策はそれなりにまた別の新しい問題をはらんでいます。しかし、関係者が注目していますので推移を見守ることになります。プロトコルで重要な着眼点は、トラブルなどではなくルーティン業務や組織の常識となっていることです。

例えば、製造業で開発設計から生産まで自社で一貫したプロセスをもっている企業で考えてみます。他人任せ(他社任せ)のプロセスがミニマムになり、ほとんどのプロセスを自社で管理できます。そのような方針を維持することは、明らかに経営のプロトコルと言えます。「自社内一貫プロセスは決まった約束事である」との理解を深めてもらう必要があります。そうでないと、知らずに約束事の一部を勝手に変更してトラブルが生じることがあります。もちろん、逆の問題もありえます。既定の方針にこだわりすぎて、あらゆる変更を避けたがるようでも困ります。経営のプロトコルは経営者の管理のもとで丁寧に扱うことが原則になります。

【3】業務効率化にもプロトコルを適用する
社内会議の効率的な進め方といったことにも経営のプロトコルは威力を発揮します。
非効率な会議はどの組織にもよくある問題です。従来の対応策は「原則1時間以内に終わらせる」、「出席者を必要最小限に絞り込む」などでした。「会議の進め方7つの約束」などが会議室に掲示されることもありました。これらはいずれも外形的なルールを決めただけで会議が非効率になることの根本にアプローチしていませんでした。会議の効率化のために次のようなことを経営のプロトコルとして制定すれば効果的な改善策になるでしょう。筆者がおつき合いしている企業のA社長が自ら率先して実行されているやり方を紹介します。

会議の運営を次のように定める
会議の目的 新規案件についての採否決定
意思決定者 企画部長
案件がもつ問題を収束させ具体的な実行課題として全員で認知する
課題のその後の進ちょく状況を確認し問題があればとりあげて解決する
組織のかかえる慢性的な問題はこの会議では扱わない(別途とする)
案件ごとに討議の経過や進ちょくなどを記録し共有サイトにアップする

このような「会議の実行手順や約束事」を決めてそれを守るようにしました(まさにプロトコルですね!)。これにより、会議の所要時間は従来2時間以上かかっていたものが20分程度に激減しました。「生産性向上とは生産性を妨げる要因をひとつずつ丁寧に取り除くこと」、A社長がつねに実践されていることのひとつです。