プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第32回

多様性こそが日本と日本企業の強み

前回は、ソニー創業者のひとりである盛田昭夫氏によるボート経営とおみこし経営という二つの経営スタイルを紹介しました。わが国の経営はおみこし経営が主流であり、多様性というわが国の貴重な文化が経営の背骨を支えています。ところが、「乱立する」多数の中小企業の現状を整理統合し効率を高めようとする動きがあります。これが行き過ぎることはわが国のエネルギーあふれる中小企業のおみこし経営を破壊することにつながるとの危惧を述べました。今回はこの続きになります。

【1】日本は効率が悪い国か
整理統合の動きがあるのは、中小企業が乱立している(あえて乱立と言いますが)この状況は望ましくないという立場からでしょう。その根拠のひとつに「日本の労働生産性は最下位(主要先進7カ国)」があると思われます。わが国で労働生産性を語るとき、いわば常識になっている有名なグラフです。約50年間もずっと最下位を続けているわが国の労働生産性は最悪で、日本は効率が悪い国というわけです。
筆者は、指標の測り方が異なるのでこの結果があると考えています。いぜんにも本連載でこれをとり上げました。生産性の指標を算出する仕組みが、他の6カ国に対して日本社会には全く適合しないからだと思っています。
この指標が悪いのではなく、わが国には合わないと筆者は考えます。欧米は何においても効率一辺倒のように見えます。それで良い結果ならばまだしも、結果は悪い。今回の感染症の対応について結果がどうなのか、日本と他の6カ国を比べてみました。

【2】効率が良いとされる6カ国と日本、その現状を比べる
6カ国とは、米国、英国、ドイツ、フランス、イタリア、カナダです。ここでの比較は、テレビニュースなどによる筆者の感覚的なものです。新型コロナ感染症が蔓延している状況で、6カ国と日本の比較結果は筆者にとっては、きわめて明らかです。圧倒的に日本が優れているのです。その状況として次の三つを取り上げました。

1.感染症への対応
絶対的な結果指標である死亡者数をみると人口比でも絶対数でもケタ違いに日本が優れている(少ない)。
また、従来型の季節性インフルエンザ患者数は昨年比で今年は二ケタ少なく激減している。これは国民、自治体、政府の努力が継続している結果と思われる。偶然の結果ではなく、国をあげて努力したことが証明されている。
2.社会の安定
社会不安、デモの暴徒化、暴動、テロといった状況は、もともと日本では皆無(地下鉄サリン事件のような例外はある)。マスメディアはことさらに感染症についての不安をあおるが、GoToキャンペーンをやるかやらないかで論議している状況は「社会不安」と言うよりは「天下泰平」に近い。もちろん、観光・サービス業や自営・フリーランスの方々には将来に対する大きな不安が継続している。政府によるタイムリーな支援が欠かせない。
3.経済・雇用
業界によって大きな差があるのは他の6カ国と同じ。ただ、解雇という最悪の事態はニュースを見る限りわが国では広がりをみせていない。新規採用の縮小や停止はあるが、解雇は避けたいという経営者の思いが見える。ドイツのルフトハンザ航空が政府から大規模支援(資本参加)を受けるニュースを聞いた。会社側は(支援があっても)従業員の解雇は避けられないと発表し労組の怒りや国民の批判を浴びた。「世間良し」は皆無で「自分だけ良し」の姿勢では、国をあげてこの事態を乗り切ろうという合意は得られないのではと感じた。

以上、筆者の判断では、先進7カ国で最も適切に対応しているのは日本だけです。世界でも初体験となった横浜港に入港したクルーズ船での日本政府の対応について、わが国のマスメディアは徹底的に非難しほとんど無能呼ばわりしました。他国の批判もほぼ同様でした。その後の対応を見るとわが国がベストであると筆者は思っています。当時、米国CDC(米国疾病予防管理センター)は優れたりっぱな組織とマスメディアは吹聴しましたが、米国の状況をみるとCDCも今回だけは有効に機能できなかったようです。隣の芝生はたいてい青い・・。
効率が悪いはずの日本は感染症の蔓延に対して、6カ国のどの国よりもうまく対応しています。その要因を次に述べることにします。感染症に限らず、すべての面でわが国はうまくいくよう努力しています。
ここで以前にも掲載した主要7か国の労働生産性の順位の変遷のグラフを再度掲載します。これを見ると日本だけは別という感じがします。日本には合わない指標であると考えれば、すんなり何の疑問もなくなります。

主要先進7か国の国民一人当たりGDPの順位の変遷


出典 労働生産性の国際比較 2019 日本生産性本部

【3】暮らしやすい国にするために継続的におカネをかけている日本
今回の感染症蔓延で、先進7カ国の医療体制の差が明確になりました。まず、米国には国民皆保険制度がありません。イタリアでは医療崩壊が起き、英国では数年前から医療崩壊寸前という状況でした。わが国の医療体制のレベルはこの7カ国では最高です。難病支援、高額医療費、予防接種などどれも国民すべてに対して高度で公平なサービスが受けられるようになっています。
医療体制のほかに、さまざまな分野においてきめ細かなサービスが提供されています。公共交通、建築、宅配・物流、電気・ガス、上下水道、郵便・通信などどれをとってもサービスとその品質はトップでしょう。ただ、最高レベルの品質を提供するには相応のコストがかかります。米国のように医療制度で国民皆保険は無しにしたら、すっきりして効率は最高でしょうが、一般の国民にとっては最悪です。国民が求めているものは、提供する側の効率の高さではなく、ぴったりした質の高いサービスです。それは効率で測るものではなく、効果がどうかという問題です。先進7カ国で「効率が最も悪い国」では、国民にとって「最も暮らしやすい、行き届いたサービスを受けられる国」が実現しています。おカネを上手に使うために効率を考えることは重要ですが、効率を最優先にしたらわが国は暮らしやすい国からあっという間に転落することになるでしょう。以下、次回に続きます。次回は「おみこし経営」の特徴を述べることにします。