プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第28回

教育や訓練が現場の活力を生み出す・・わが国独自の強み

前回は、わが国独自の強みは信用と信頼であることを述べました。その実例の紹介で他国の悪い例としてドイツ車のディーゼル排ガス不正事件を、良い例では中東地域の戦乱の現場で実証された信頼性としてトヨタ1トントラックを、それぞれ取り上げました。わが国の企業では経営の価値観として「三方良し」や「経営の永続性」が当たり前であるのに対して、他国では儲かるためには手段を選ばずといった経営の価値観があるとも述べました。
今回は、わが国の強みである信用と信頼のもとになっている経営の価値観が現場の活力とどう関係するかを述べることにします。

【1】すべての国民に対して教育の機会があるわが国
士農工商という身分制度がある時代でも、教育は武士の階級だけではなく町民には寺子屋がありました。明治維新から現在まで、わが国の教育はすべての国民を対象にするという考えが一貫しています。これは、就職してからの期間がとくにわが国は世界でも独壇場と言ってよいレベルと思われます。OJT(仕事を通じての教育・訓練)はわが国独自のものと言えます。この伝統はだんだんと廃れてきた雰囲気もあります。しかし、仕事をしながら教育・訓練をもとに成長を目指すという考えは現在でも確実に存在しています。経営陣も従業員も、これを疎かにしている日本企業は無いといえるでしょう。この結果として、このような日本には、次のような独自の強みがあると思われます。

【2】新しい商品やサービスが現場から出てくる日本
現在の代表的グローバル企業と言えば、GAFAに代表される米国企業ですね。いずれも、創業者が自ら牽引しています。テスラの経営者などは、製品にトラブルがあると自ら世界中を駆け回っている感じがします。あれでは、彼がいなくなったらどうなるのだろうと思わずにはいられません。「三方良し」などは眼中にありませんから、独禁法で告訴されたりしますし、「経営の永続性」も気にしないので、わが国風に言えばトップリーダーによる「一代身上」(一代限りの世界)です。
わが国にはそのようなグローバル企業は見かけませんが、かなり違います。すべて、現場の人たちが活躍しています。もちろん、経営トップの考えや指向がそうだからです。トヨタがハイブリッドで独走しても、他社も負けずに追いつこうとします。マツダは燃焼技術や排ガス対策で世界のトップレベルを達成しました。ドイツのクルマメーカーにはこのような「負けずに追いつく」姿勢や活力は無いようです。筆者は、この状況は現場の活力の差異と考えています。現場の活力と言えば、製造現場のカイゼン活動はその代表例です。カイゼン活動は、結局のところ、わが国以外では成立しないのではないかと思っています。

【3】教育・訓練が活力のもとになっている
「生涯教育」の日本に対して、世界の諸国では教育を受けられる機会は限られています。教育には大きなコストがかかります。見かけの合理性で判断すれば、特定の限られた階層や限られた機会だけにしたほうが効率的であるとの考え方です。労働生産性の国際比較(先進7カ国)で、わが国がずっと最下位を継続しているのは、教育コストの有無が要因のひとつになっていることが考えられます。わが国の資源は人であり、教育・訓練を受けた現場の人材となり現場の活力を生み出しています。