プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第17回

現有メンバーの実力を発揮する

前回は、現有メンバー個人のパフォーマンスはシンプルに二つの要素で決まること、無用なストレスを減らせば実力の発揮につながることなどを述べました。とくに目新しいことは何もありませんが、実力を100%発揮するには経営トップの意思と継続的な取り組みが欠かせません。今回は、実力を発揮できたのはどういう環境だったのか、またスケジュールの実力値をベースにすればどういうことができるかをご紹介します。

【1】抜群の高品質を達成した秘密とは
筆者が日産自動車勤務時代のことです。新発売の商品2車種で抜群の高品質を達成したことがありました。ここで品質とは購入者からの品質不具合の程度です。開発部門でその秘密を探ることになりましたが、誰もわからない。設計プロセスでとくに変更したところも無い。生産工場との関係もとくに変えたところはなく、従来どおりでした。結局、関係者が思い当たったことはシンプルな事実でした。つまり、その2車種の開発期間中はいつもより「開発の負荷(開発する車種数=仕事量)が低かった」ということでした。その結果として、時間に余裕ができたので「やるべきことはすべてやれた」「試作でのフィードバックもすべて設計変更として反映できた」。つまり、時間的なゆとりが実力を100%発揮させた、ということで結論が一致しました。設計の品質が向上したので、同期して生産の品質も向上し、製品としての品質も良くなったのでした。
開発の負荷がいつもより、どのくらい低かったかは残念ながら数値的な調査はできませんでした。しかし、これについては次のような良いヒントがありますので紹介します。
    
制約理論(TOC:Theory of Constraints)の提唱者であるゴールドラット博士が来日して開催された講演会に参加しました。講演終了後の質疑応答のひとコマです。
質問:開発設計の高い負荷が続いて困っている、解決策は何か?
回答:まず、現在の仕事量を30%減らしなさい!
この回答だけは良く覚えていますが、その後に続いたはずの解説はおぼろげになります。たぶん、適正な仕事量のもとで、どういうことが起こるかを直視する。そのうえでやるべきことを考えよ、といったことだったと記憶しています。

いずれにせよ、負荷が減ることは売上が減ることですから、そのままでは受け入れることはできません。しかし、能力をふやすために残業や休日出勤の増加は永続的には実施できませんし採用を増やすことも難しい状況です。従って、結論は前回述べた「現有のメンバーでチーム力を高める」シナリオの方向にしかありません。これらを実践しながら、チーム力を30%程度高めることができれば、適正な仕事量を高い品質でこなせることになります。

【2】現有メンバーのままでチームのパフォーマンスを上げるには
従来のスケジュール作成(逆線表と呼ばれるやり方)は、発展性がなく、「このスケジュールでやるしかない」という思考停止に陥りやすいことを指摘しました。そして、「2点見積もり」による実力値スケジュールを紹介しました。このやり方を使えば、現有メンバーの設計スキルそのものはそのままでも、チームの(組織の)パフォーマンスを上げることができるようになります。このためには、第12回で紹介したやり方が基本になります。

(1)前提 バッファー残量で進ちょくを管理する
第12回で紹介したことを図示します。
図1 バッファー残量で進ちょくを管理する


(2)進ちょく状況の見える化でメンバーの優先配置ができる
限られたメンバーを赤信号の(対策実行を要する)プロジェクトに優先して移動(配置)させることができます。 前提として移動させるメンバーのスキルが共通することが必要です。
図2 進行中のプロジェクトでメンバーを優先配置する


ロジェクトが3つP、Q、R、進行中です。メンバーはE、F、G、3名です。
プロジェクトQが赤信号で対策実行を要する段階です。対策として他のメンバーで応援することにしました。他のメンバーをどう優先配置すればよいかは明確にわかります。
・プロジェクトQを応援するならまずGさんです(プロジェクトRは中断してよい・・緑信号だから)
・場合によっては、Eさんも応援できます(プロジェクトPはある期間なら中断できる・・黄信号だから)
図は説明用で単純化しました。このように、実情に即して安心して応援体制がつくれます。プロジェクトがもっと増えても、このやり方で限りのあるメンバーを状況に応じて柔軟なメンバーの移動(配置変更)が安心して実行できます。筆者は、このようなやり方を「フレックス法」と名づけてお薦めしています。

スケジュールの実力値をベースにすれば、現有メンバーの実力値を無駄なストレス無く、最大限に発揮できます。チームのパフォーマンスについても30%アップなどを狙うことができるようになります。