プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第16回

現有のメンバーでチーム力を高める

前回、製造業でとくに企業全体のボトルネックになりやすい開発・設計部門の現場で起きている望ましくない状況について述べました。そして、製造部門と対比してわかることとして、製造の実力は数値として把握しやすいが、開発・設計部門の「実力」は把握しにくいことがありました。そこで、まずはスケジュールの実力値を把握することが、立ち遅れているインフラ整備の第一歩であり、生産性向上のための実践的なアプローチであることを説明しました。
 
今回は、前回の結論である実力以上のことはできないとしても、実力を100%発揮するためにはどのような観点や注意点があるかをとり上げます。
 
【1】メンバーのパフォーマンスは何で決まるか
メンバーのパフォーマンスは、シンプルに二つの要素の掛け算で決まります。
 
パフォーマンス= 能力(技術・知識・経験) × コンディション(健康・職場環境・マインド)  
個人の能力について、積極的に新技術やマネジメントについての学びの機会を提供することが必要です。コンディションは個人の集まりであるチームの環境が大きく関係することになります。いずれについても個人任せや管理職任せにせず、経営トップが積極的に関わることが欠かせません。そうでないと、現在の実力すら発揮できません。以下、今回はチームのパフォーマンス向上、つまり「チーム力を上げる」ことを主に述べることにします。
 
【2】無くてすむストレスを減らす
①無用な発言を慎む
筆者の見聞きしたことのひとつですが、ある役員で「諸悪の根源は設計にある」と公言される方がありました。設計ミスがあればクレームやリコールが起こるし、ちょっとした工夫が足りなくても製造現場で難作業が生じたりしますから、それらの根源が設計にあるのは確かでしょう。しかし、社内での大っぴらな発言は設計チームの誰にとっても不愉快なことに違いありません。役員のあるべき姿勢としては、設計や製造など関係する役員がお互いに協力して「諸悪」が起こらないよう社内の仕組みをつくることでしょう。
 
②進ちょく会議をストレスフリーにする
これまで述べてきましたが、プロジェクトの進ちょく会議は「責任追及」の場になりやすいのです。とくに、社内で臨時に結成されたプロジェクトチームの場合は本来業務の他に、慣れないことをやる状況になります。責任追及ではなく「問題解決」の場にすることがストレスを無くし、積極的な取り組みにつながります。担当役員やプロジェクトリーダーの配慮がカギになります。
 
③スケジュールの再立案(リスケ)を無くす
リスケは、社内関係部署との調整がやっかいです。その原因が自部署にあるときはストレスがさらに高まります。これまで述べてきた「2点見積もりによる実力値スケジュール」を採用すれば、無理なく解消できます。 
 
④応援体制をつくり上げる
人手不足は「人不足」と「手不足」に分けられるそうです。
人不足・・技術者、CADオペレーターなどの人材が足りないこと
手不足・・その人でなくても他の人でもやれる仕事だが、それに手が回らない
本稿では「現有のメンバーで」という前提ですので、「手不足」について述べます。
・チーム内のメンバー相互の応援体制をつくる
設計スキルについて多能工化が必要になりますが、当然やるべきことです。属人化を避けたり、標準作業化、新人の早期戦力化などにも欠かせない重要事項です。
・チームを超えて社内の応援体制をつくる
季節変動が大きい場合は、設計チーム以外の関連職場に設計スキルのある人材を指名し教育しておく必要があります。これからの人不足の時代には当たり前のやり方となるでしょう。
 
⑤設計本業の稼働時間を高める
小さなロスタイムの根絶です。よくフリーズする電子機器、スピードが遅くイライラするパソコン、
故障やトラブルが多くなったコピー機、少し古い記録だと互換性がない情報システムなど等
おカネで買えるものはきちんと投資することがきわめて重要です。このようなことで失われる時間は、設計本業の稼働時間を浪費することになります。一文惜しみの百知らず、本業で失われた時間はおカネで買えません。