プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第15回

生産性向上のためのインフラ整備が立ち遅れている

スケジュールを計画どおりに進めるため、あるいは納期を守るためにはさまざまなストレスがあります。責任追及の場になりやすい進ちょく会議、スケジュール再立案に伴う調整のために追加される時間、予期しない仕様の追加や変更、突然の割り込み仕事など等、すべてチームのメンバーにストレスを発生させることになります。同時に、チームの生産性は大幅に悪化することになります。

このような状況は、生産性向上のインフラ整備立ち遅れによる弊害の一部に過ぎません。今回は、現有人員のままで生産性向上のために何ができるか、そのための現状の確認と改善策としてひとつの推奨案を述べることにします。

【1】インフラ整備が立ち遅れている
ここでは製造業のホワイトカラー部門で、とくに企業全体のボトルネックになりやすい開発・設計部門に絞って述べることにします。これらは、筆者がプロジェクトマネジメントの公開セミナー、企業内セミナーやコンサルティングなどで見聞きしたこと、質疑応答でわかった参加者の皆さんの胸のうちにあることを要約したものです。

(1)開発・設計の現場で起きていること
①顧客の要求をすべて受け入れてしまう
要求に対して自分たちからの代替案を出せず、結局は納期最優先で押し切られてしまう。

②納期を守れそうにない提案をしてしまう
顧客が提示した納期は絶対なので、守れそうにない提案になる。上司からは計画時点で見積り精度を高めるように言われるが、難しい。

③チームの実力以上のことをやろうとする
そもそも何が実力なのかが難しく、スケジュールの実力値もわからない。

④進ちょく会議はストレスが多い
進ちょく会議は責任追求に対して言い訳をする会議になっている。作業が遅れるたびにスケジュール修整や部門間調整にも時間がかかる。

⑤着手後、やり直しや手戻りが発生し大幅遅れになる
設計の事前検討が甘かったからだと指摘される。いつも、早く着手しなければというあせりがある。

⑥予期しない仕様の追加や変更が発生する
途中で仕様追加があると、その対応で遅れる。それでも納期はもとのままで変らない。

(2)製造現場と対比してわかること・・実力以上のことはできない
前述した「開発・設計の現場で起きていること」を製造現場と対比してみると、「実力以上のことをやろうとする」が際立った違いであることがわかります。

例えば、製造の生産能力というとき「月産」とは量の能力を示しています。これは、残業など操業時間の増加により若干の増加は見込めますが、それ以上、つまり実力以上のことは不可能です。ところが、開発・設計の実力は測定や判断が難しいという特徴があります。そのため結果的に「実力以上のことをやろうとする」傾向になります。当然のことですが、「実力以上のことはできない」のです。

開発・設計の現場で起きている望ましくない結果のほとんど全ての原因はここにあります。このような結果を放置しておくと、それは歪として蓄積されていきます。さらに望ましくない結果である事故や事件として表面化することになりかねません。

(3)時間(納期)は特別な要素
プロジェクトマネジメントとは、三つの制約条件をうまくやりくりして所期の目的を達成することだと説明されます。その三つとは、「スコープ(契約の範囲;目的の成果物)」「納期(時間)」「資源(ヒト、モノ、カネ)」となります。
図 プロジェクトマネジメント 三つの制約条件


この三つのうち納期(時間)は特別な条件で、他の条件とは際立って異なる面があります。
まず、「資源」ならその気になればいくらでも追加することができますし、「契約の範囲」なら双方の協議でいかようにも変更できます。ところが、「時間」は違います。誰にでも1日は24時間であり、これを変更する(伸縮させる)ことはできません。約束の時間に間に合わなかったら、誰にでも「遅れた」とわかります。このように時間はどのようなビジネスにおいても、特別な要素であると言えます。

【2】インフラ整備の第一歩とは
ここまで、カギとなることとして「実力以上のことはできない」、「時間は特別な要素」の二つを述べてきました。この二つを統合して「スケジュールの実力値を把握して運用する」を、インフラ整備の第一歩として推奨します。「開発・設計の実力」を、「スケジュールの実力値」で代表させることになります。開発・設計の実力は、質と量、二つの側面がありますが、まずはスケジュールで量の側面から代表させることになります。そのやり方は、本連載第13回で「スケジュールの実力値を把握する」を述べました。

スケジュールの実力値を把握することは、納期確約のための正攻法であり、ひとつのプロジェクトを経験するたびに組織の知的資産が積みあがる着実なアプローチとなります。また、プロジェクトマネジメントの観点からは、現有人員のままで生産性を向上させる実践的なアプローチでもあります。