プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第134回

プロジェクトのゴールはどのように見えるのか DX時代のプロジェクト(その18)

前回は、仕事の進め方の原則や方針について述べました。原則とは基本的な規則(ルール)のことであり、方針は方向性を示すものでした。組織の計画や行動について、方向性は組織のトップにとってきわめて重要です。これが的確に伝わらないと、目的や目標は共有していたとしても的外れや遠回りになることが起こります。方針は、方針書などを示すことより的確に伝える必要があります。筆者が納得した事例などを紹介しました。紹介したことはいずれも企業の社長やスポーツ活動の監督など組織活動におけるトップとして強い影響力をもつ立場にある人たちによるものでした。そして、それらの事例は組織構成メンバーの成長のための教育をより効果的にするための原則や方針についての具体的な事例でした。
今回は、組織活動の原則や方針についての続きです。組織の管理職やグループリーダーに必要となる仕事の進め方について、その原則と方針を述べることにします。

【1】仕事の進め方にPMの発想を取り入れる
プロジェクトを効果的に運営するための知識はプロジェクトマネジメント(PM)として体系化されています。例えば顧客から依頼された設計案件を製品化する業務では、PMのような体系的な知識は大いに参考になります。なぜなら、PMは体系化されるプロセスで原則や方針の観点からきちんと整理されているからです。とはいえ、PM体系の全てを学ぶ必要はありません。

自社組織においてPMの発想を適切に取り入れることは、業務のスリム化、レベルアップ、ミスの低減やメンバーの成長などに大きな効果が期待できます。また、PMの体系から逸脱するように見えるプロセスが業務で見つかったときでも、組織や業務の目指すところを確認することで逸脱の有無を確認することができます。次の章で、仕事の進め方において主な観点をとりあげ、そこでの原則と方針をみていくことにします。

【2】ルーティン業務における仕事の進め方の原則と方針
一般的にルーティン業務は、業務マニュアルや業務手順書などに丁寧に記述されます。そこには、原則と方針という言葉は必ずしも見つからないかもしれません。それは、当たり前のことなので書きにくいということもあるでしょう。ここで、それらを確認することにします。まずは、原則についてです。例として顧客からの設計案件を製品化する企業で設計チームのルーティン業務をとり上げます。

次に述べることは仕事の進め方の「原則」として必要となるものですが、「原則」という言葉は必ずしも使われていません。

①仕事の入り口(顧客要求)をお互いに明確にする。
顧客の要求と自社の要望をすり合わせた結果を「確定仕様書」などのかたちで合意内容を明文化する。同時に、自社内での新規設計上の課題などがあれば明文化しておく。
②設計途上での予期しないトラブル発生時に顧客と必要な対応を協議する。
想定外の事態はありえるので着手後の設計変更は協議の上承認されることが欠かせない。
③顧客に対してプロジェクトの進ちょく状況を定期的に報告する。
④仕事の出口(納入仕様書)を相互に確認する。
設計の完了時には、設計の着手時とある程度の差異が発生することを前提にしておく。

このように、プロジェクトマネジメント(PM)では確定仕様書、変更管理、納入仕様書などの用語が使われています。これらの用語を使うことが、そのまま仕事の進め方の原則を実践していることになります。同時に仕事の進め方の方針はPMの原則そのものに織り込まれています。仕事の進め方の方針と原則が一体化している、と言うこともできます。従って、「原則」や「方針」という言葉はほとんど使われていません。

【3】チームメンバーの教育を計画する
職場での教育はOJT(仕事を通じての教育・訓練)が基本と言われています。筆者が研修講師になるための教育を受講したとき、学んだ「法則」を紹介します。図に示すのは「1-2-7の法則」と呼ばれるものです。これは、仕事で人が成長するプロセスには法則性がある、ということを説明しています。参考までに、この法則は新しい仕事を始めるときにも適用できます。

第1段階 基礎知識を学ぶ(10%)
第2段階 先輩の薫陶をうける(20%)
第3段階 自分で実際にやってみる(70%)
( )内は教育に要する時間全体を100%とした場合の割合

図 仕事で人が成長する 1-2-7の法則


【4】この法則を職場教育の方針とする  参考のための一例
方針とは計画や行動についておよその方向を示すものと説明しました。およその方向ということであれば、このような3つの段階としてそれぞれはほぼこのくらいの期間(時間)をかける、といったイメージがわいてきます。そして、「基礎知識を学ぶ」や「先輩の薫陶を受ける」にはそれなりの期間が必要なことが理解できます。全期間をどの程度にするか、そして三つの段階のそれぞれの比率は各企業で独自に決めることができるでしょう。

この法則の優れたところは、三つの段階を定義したこと、そしてそれらの期間を比率で提示したこと、この二つと思われます。法則が示す方針に基づいて、例えば次のように考えることができます。第一段階の「基礎知識を学ぶ」ときの知識について「原則は現在の業務手順書に記載されている範囲とする」などと発想できます。方針(方向性)がわかりやすいと、原則(基本的なルール)についても発想や展開が容易になることを示しています。