プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第131回

プロジェクトのゴールはどのように見えるのか DX時代のプロジェクト(その15)

前回は、自分勝手なリクツで信頼を喪失した某医科大学の事例や、大手製造業で検査データの改ざんやごまかしを30年以上もやっていた事例などから、わが国の大学や大企業の組織におけるモラル欠落の事例を紹介しました。これらに比して、中小企業、とくに製造業のモラルの高さが際立つことを述べました。そこで中小企業の様ざまな社外への情報発信やおつき合いは社内の規則(内規)として明文化し、全てのイベントはそれに基づいて対応することが有用と説明しました。これらの積み重ねが社会にとってあるいは企業にとって望ましい企業文化を形成することにもつながることを述べました。また、国際規格の取得なども単なるおつき合いの域を超えて企業成長のための戦略的な方策になることも紹介しました。
今回は、これらを踏まえてこれからの中小企業の様ざまな課題について考えることにします。

【1】競争力の国際比較
日本カイゼンプロジェクトの連載記事のひとつに柿内会長による「モノづくりの現場探求」があります。その第28回は「日本のデジタル競争力2」でした。それによると、2022年世界デジタル競争ランキングでわが国の順位はどうも芳しくなかったようです。昨年より1つ順位を下げて29位と過去最低となったということです。言ってみれば、こういう「成績表」は世界にはいろいろあるわけですが、どう解釈するか、まずは率直に読み解く姿勢が必要でしょう。その好例として、柿内会長はランキングを構成する項目のうち、最下位になった3項目に着目されています。それらは、国際経験、ビッグデータ活用・分析、ビジネス上の俊敏性です。ここではそれらを分析して製造業でどのようにカイゼン活動につなげるかを提言されています。カイゼン活動はわが国独自の文化です。こういう世界ランキングの情報から活動のレベルアップにつなげることは、まさにわが国のカイゼン文化の優れた特長のひとつと感じます。わが国以外の国々ではこのランキング情報を、わが国のカイゼン現場のような活動に結びつけている国はあるのでしょうか。大いに興味があるところです。

【2】ランキング情報をカイゼン活動に活かす
このランキングはスイスのビジネススクールIMDが毎年発表している情報です。出所としては間違い無く権威ある国際的な機関です。ランキングの対象としては68の国や地域だそうです。構成する項目の中でわが国が最下位になった3つのうちのひとつは国際経験でした。これについて筆者は「それはそうかも知れない」と感じます。とはいえ、筆者はこういう国際的な順位比較はあくまで参考情報なのかなと考えます。何であれ国際比較はそもそも難しいことです。国際経験とひと口で言っても具体的な指標を選定するのでしょうから、その重みづけは国ごとにかなりの差異があるはずです。最終的に競争力を数値化して比較しランキングを導き出すのでしょう。専門家がランキングの推移を継続して追跡して何かの結論を導き出すための研究資料としては有効なのでしょう。

我われ製造業の場合、ランキングの情報からどういう情報なり行動のきっかけなりを導きだせばよいのでしょうか。柿内会長によると、最下位の3項目については「これまでの常識にとらわれず、あるべき姿を設定してカイゼンに臨むことが必要」との結論です。つまり、これらの3項目はデジタル競争力にとどまらずカイゼンにおいても重要な要素になるからと説明されています。筆者は本連載で中小企業の経営マネジメント全般についてとり上げてきましたが、3項目の重要性はまさにここでも共通するものです。まず、筆者の考える目前の経営課題を次に述べることにします。

【3】中小企業 目前の経営課題
筆者が考える目前の経営課題として次のような3項目があります。

(1)新製品、新サービスの開発
世界的にみて米国の新興企業であるGAFAMは新サービスで市場を独占した特異な事例です。わが国や欧州の企業においてもこのような事例から比べれば停滞を続けていることになります。とくにわが国は社内の余裕資金が積みあがるだけで、それを再投資にまわさないことが批判されています。利益を従業員に還元することを抑えていることも批判されてきましたが、これはインフレも進行しつつあるなかで還元(給料アップ)が進む雰囲気ができつつあります。新製品、新サービスは社内の人材が生み出すものです。ヒトとカネを集中させる時期が来ています。

(2)人材開発、人材の確保
わが国の人口減少の流れは確定した事実として受け止められています。とくに中小企業においては従来以上に採用難が進むことが予想されます。対応策としては直接的な省人化や省力化の他に、直接部門や間接部門を問わず、自動化・無人化ができる業務プロセスへの変革が求められています。社内の生産性向上の範囲だけでなく、品質向上の取り組みによるロスの削減なども同様な効果があります。就業規則の変更などを含め、パート、アルバイト、派遣社員などについて正規雇用にするなどで労働時間を増加させる対策もあります。

(3)規模の拡大
中小企業の一人当たり労働生産性(付加価値)は大企業の半分弱です。規模の差はやむを得ない面がありますが、相応の工夫の余地はあるはずです。本連載で既にとり上げましたが、企業内の取り組みの他に企業間の連携による生産性向上があります。同業種企業との提携や連合・製造プロセスの共用、垂直連合(プロセスの上流から下流までを連携する)、あるいは地域間の人材連携(工業団地内などでの人材の融通)などが考えられます。

【4】ビジネスの俊敏性を高める
世界デジタル競争ランキングを構成する項目でわが国が最下位になったものが3つありました。そのうちのひとつが、ビジネスの俊敏性でした。前項で、中小企業の目前の経営課題3つを説明しました。この3つはきわめて重要な課題であることは認めてもらえると思います。これらについて、構想をまとめて計画に落とし込む。そして実践し結果を得る。ビジネスの俊敏性を高める機会はいくらでもあり、どれを優先して実践するか選択の問題となっています。