プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第130回

プロジェクトのゴールはどのように見えるのか DX時代のプロジェクト(その14)

前回は、女子受験者のみ入試で一律減点した医科大学の事例をとり上げました。とても公開できないような自分勝手なリクツを隠し通すことができるとでも思ったのでしょうか。何を公開すべきか その常識が欠落している大学トップ層がこの事件での信頼喪失や科された罰則は甚大なものでした。反面、中東などの異文化にもピタリと通じる素晴らしいコミュニケーションも紹介しました。
今回は、リコールやクレームの対応以外のお付き合いについて述べることにします。これは国内や海外を問わず、突然の対応を迫られることもあります。かねてから、そのような対応ができる企業文化を形成しておくことも必要になります。

【1】自分勝手なリクツは通らないことが理解できない人たち
この大学は文科省高官の子弟を裏口入学させる約束も露見してしまいました。この高官もその秘密は息子が入学した後々までも守り通せるとでも思ったのでしょうか、それとも、ばれたとしてもどうということは無いと思ったのでしょうか。これらの考えは、我われ製造業に生きる者として例えるなら、多少のミスは許されるとか、このくらいならリコールは発表せずにおこうというようなモラルの無さや低さに相当します。製造業でも大手の場合は、検査データの改ざんやごまかしを30年以上もやっていたり、リコール隠しで経営陣が検挙されるなどもありました。中小企業の場合はそのようなケースはほとんどありません。この連載で、中小企業は大企業に比して一人当たり労働生産性が低いことを紹介しました。これは基本的には規模の問題になりますが、企業モラルとしての比較なら、中小企業、とくに日本カイゼンプロジェクトの会員企業の場合は高いレベルが際立つと実感しています。

【2】内規をつくる 社内外に通じる説明のために
前回、曽野綾子さんの体験を紹介しました。海外渡航時の入国審査の場であのように秀逸な対応ができる人は相応の知識経験の持ち主でないと難しいと思います。我われ中小企業の場合、内規(社内の規則)をつくっておくことが対策になります。社内に従業員の冠婚葬祭の内規があるように社外にも適用できるものをつくっておきます。

地元の地域社会とのおつき合い
お祭などのイベントのために、過去の事例から具体的なお祝い金額などを記録しておきます。
神社などの改装などけっこうな金額のものもありますが、これらは公開されますから参考になります。逐一記録を重ねていけば相場値が見えてきます。これらは多くの企業で既に取り組まれていることです。

スポーツなどの社会活動への応援
積極的に地元のサッカーチームに応援することなどもありますが、キリがありません。とくに海外などでは日本企業は「良い出資者」、ありていに言えば金づるとして期待されます。地元のボスが100%カネ目当てということもありえます。こういう場合の断り方として、評論家の日下公人氏がその著書で紹介されていました。「・・わが社の創業者は柔道愛好家である。社内に柔道部もある。柔道なら応援してもよいが、その他は一切ダメだ」、この場合、柔道でなく空手や弓道でも何でもよいわけですが、現実にそれをやっていることが必須条件で、ウソでは通じないと書いてありました。

【3】国際規格関連の認証を取得する
ISOなどは有名ですが、認証取得とその維持のためにはカネも時間もかなりのものが必要になります。納入先の顧客企業がそういう認証取得を必須条件とする場合には選択の余地はありません。その場合は、認証取得のために最低限の努力で済ませるか、あるいは認証取得をきっかけにして自社の経営マネジメントレベルの向上を目指すか、経営者の選択しだいです。次にその選択のひとつを紹介します。

筆者がお付き合いしている企業A社の一例です。欧州の規格でわが国では欧州ビジネスを手がけている大手企業2社のみがその認証を取得しています。A社はその認証取得に向けて活動を開始しました。普通に考えれば、わざわざ一段と厳しい認証取得は不要と思われます。A社経営トップの考えは「これは欧州ビジネス参入の足がかりになるもの」との位置づけです。欧州のその業界で常識化している認証を取得すればその認証企業の集まりに名を連ねることができる。そこに日本企業は3社しか無い。いわゆる「日本品質」は欧州でも定評がある(筆者の見解ですが、この定評の背景にドイツ産業界の凋落があります)。日本企業というだけで宣伝しなくても声がかかるようになるだろう。つまり、3社しかない希少価値を含む宣伝効果がある。また、欧州に出先事務所を構えるのは企業体力として無理がある。国内にいてできる認証取得は、欧州事務所の代替策になりえる。これらの説明はきわめて説得的です。こういうことが戦略的と言うのだろうと思いました。

【4】業界団体や学会への参加
筆者が日産の鋳造工場に在籍していたときに見聞きしたことです。鋳造工学会という学会組織を通じて他社との交流がありました。当時、学会の理事を務めていたB部長は他社の方々ともお付き合いがあり、自社のトラブル対策を相談していました。筆者の担当ではありませんでしたが、同僚が不良品多発を部長に報告していました。あらましを聞いて部長はその場から学会で馴染みのC社出身の学会理事に電話しました。「以前に発表していたあのやり方を詳しく教えて欲しい」という依頼でした。しばらくして、数10枚のFAXが届きました(当時、メールはまだありませんでした)。

このような学会とは異なるチャンネルをつくって、活用した事例もあります。設計部門の課長は他社の設計と懇談の機会をつくりお互いの設計のやり方や組織体制について情報交換をしていました。同業者の団体の他、地方自治体の産業サービス部門を活用するやり方もあります。同業者はライバルという側面がありますが、同じ悩みやニーズもあります。さまざまな機会をとらえて情報交換をおこなうことができます。これはわが国社会、とくに産業界の美点です。経営トップが率先することにより、好ましい企業文化の形成につながります。