プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第125回

プロジェクトのゴールはどのように見えるのか DX時代のプロジェクト(その9)

前回は、自動車販売会社営業所周囲の公道清掃などの日常的な取り組み、企業の遊休資産の芸術活動への支援としてあまり使っていない講堂を民間の交響楽団の練習会場として提供するなどの事例を紹介しました。また大震災など非常時の経営トップの行動として、被災した自治体に復興活動の協力を申し出た事例なども紹介しました。これらはすべて企業内部の資源(ヒト、モノ、カネ)の活用でした。これらは企業の従業員や地域社会に対して企業の評価を高めることになります。企業が社会の一員であることを示すために欠かせないことです。内部資源をどう活用するか、これらの前回述べた方向とは異なるものもあります。
今回は、内部資源の活用方向を同業界や同業者に働きかけて、それらの資源を活用すること、協業や企業連携などについて考えてみます。

【1】カイゼン活動を他社に展開する 
どの企業であれ、外部企業との関係があります。部材納入メーカーや下請けなどの協力企業があります。それらの企業において品質や納期などで問題があるとき、顧客の立場で要望を出すことになります。企業体力の問題でなかなか期待する改善結果が出ない(出せない)こともあります。このような場合、自社のメンバーでカイゼン活動の支援をすることが考えられます。もちろん、そのためには相手先企業がそのような支援を歓迎する雰囲気が欠かせません。このためには、かねてからのお付き合い、つまり良好な関係がカギになります。企業規模の大小や購入か納入かといった立場の違いなどで、やたらと見下したりするようでは良好な関係はできにくいでしょう。また、相手先企業が自社より大きい場合でも、かねてからの関係性がモノを言います。かねてから、自社のカイゼン活動の状況を伝えて理解を深めることができていたら、案外、すんなりとカイゼン支援を受け入れてもらえます。そこで良い結果を出すことができれば、両社の関係をさらに良好なものにできることでしょう。

5S活動の目標として、自社内だけの活動ではなくこのような場面にも通用する人材育成ということも含めるとよいでしょう。この観点から、次のような取り組みが考えられます。

【2】起業家やミニ企業を支援する
ここで「支援する」とは、社会貢献のつもりでの支援がまずあるでしょう。次に、そこと一般的な商取引をおこなうことも大きな支援になるでしょう。似通った業種であれば、自社にとって何らかのバックアップになることもあります。またそこの経営者の発想が自社にとって大きな学びになることもあるでしょう。前項ではカイゼン支援について述べました。そのような場面で通用する人材が育っていることが前提でした。本項の起業家やミニ企業の支援においてはカイゼンリーダーも必要になるでしょうが、経営者(経営層)の役割が大きくなるでしょう。例えば月1回などと定期的に実践することが必要です。こういう起業家やミニ企業をどう見つけるかは、地方自治体に相談することができます。

ほぼ同業種であれば、将来的にはライバルや強敵になることも考えられます。そこが気になるようであれば何もしないことです。とはいえ、変化の激しい現代においてはつねに発想の柔軟性が欠かせません。そのためのひとつの方策として紹介しました。

【3】管理会計を強化する
企業の財務会計は、税金をきちんと納めるために不可欠な仕組みになっています。財務会計で算出した個別製品の利益や原価があります。これらを現場のカイゼン活動にそのまま使うことは一般的には無理があります。これは、次のようなことです。例えばA製品は赤字になっているとします(財務会計の数値でそういう結果になっているとします)。売価は正しいでしょう。
A製品の販売価格はきちんと把握されているからです。ところがA製品の原価は、このような状況では必ずしも「正しい」とは限りません。原価には必ず割り勘計算による配賦コストが含まれるからです。A製品の原価は、材料費や購入する部品費などは「正しく」把握できるとしても必ず割り勘計算による配賦コストの問題がつきまといます。材料費や部品費など単価がきちんと把握できるものについてのコストダウンは正確に反映できます。しかし、原価の他の要素は必ずしも正確には反映できません。そのために個別製品の損益は損と益が現実には逆転することも大いにありえます。

その欠点を補うのが管理会計です。管理会計の目的のひとつは、本当に儲かっている(損している)製品はどれかを識別することがあります。そのために損益を実際のおカネの出入りで把握することになります。利益改善のために、例えば「金属材料の使用量を10%低減する」と計画したとします。全ての製品に対して一斉に取り組むよりも、赤字額の大きい製品に絞って取り組むほうが現実的なやり方です。「赤字額の大きい製品はどれか」を識別するのが管理会計の役割です。企業の利益改善のためには、ある段階から財務会計とリンクした管理会計が必須となります。これは経済性工学などと呼ばれることもあります。

【4】同業者で連携する
ひと昔前のように感じますが「インダストリー4.0」の現地見学会で、2016年3月、ドイツのミュンヘンなどの都市に出張したことがあります。そのとき開催されていた研磨剤の国際見本市を見学しました。この業界はドイツの中小企業も多数参加すると聞きました。ここで知ったのですが、研磨剤に関連する中小企業が集まって連合体としての統一ブランドを持っていることでした。個々には小さな企業でも、連合体のブランドで取引ができるわけです。もちろん、それなりの出資金や経費の負担はあるのでしょうが、小さな企業でも統一ブランドゆえの知名度や信頼感が得られるメリットは大きいのでしょう。なかなか賢いやり方と感心しました。

似たようなことは東京都の産業政策でも実例がありました。知人の実家はメッキ業を経営していました。公害対策など中小企業のみでは難しいことでしたが、東京都はこの業界の企業を連合させて組合組織をつくり現在に至っています。地方自治体の産業政策として成功例のひとつと思われます。

現在は企業の合併や買収はわが国においても、特に珍しくはない状況になりました。いきなりそこにジャンプするのではなく、統一ブランド、信頼度向上、事業承継、自治体の協力などの観点から協業、企業連携、企業連合や同盟など自社に適した企業のあり方を視野に入れておくことも必要ではないかと考えます。