プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第103回 番外編

番外編(9) 終身雇用、その意味と価値を考える

前回の番外編(8)では、目的の明確化、意味と価値を明らかにすることを述べました。これはプロジェクトで最初にやっておく欠かせないことでした。また、前々回(第101回)でしたがこれからの時代に明確に意識して身につけておくべきビジネススキルとして対話力を紹介しました。そして、対話において必要になることは、プロジェクトにおいてもそっくり同じであることを説明しました。
今回は、わが国独特の慣行である終身雇用制度についてその意味と価値を考えることにします。

【1】終身雇用は正社員の最後の既得権益
最近、こういう終身雇用を否定する粗雑な言説があると聞きました。終身雇用は年功的賃金や家族手当てなどとセットでわが国独自の雇用形態として存続してきました。大きな転機はバブル経済崩壊以降に訪れ、非正社員の一般化などの様ざまな変化が起きました。それでも、正社員が定年まで働くことができる終身雇用は存続しています。筆者は、これこそがカイゼン活動や環境変化への柔軟な対応など日本企業、とくに中小企業の活力の源泉と考えています。本稿では、その意味と価値を考えます。

終身雇用と聞くと、筆者が思い出すことがあります。まずそれを述べることにします。

【2】日本には終身雇用制度があると聞いた
カイゼン講演でロシアに出張したときのことです。開始から2時間ほど経って休憩のときに、受講者の一人がロシア人通訳に話しているのです。「・・日本の社会には終身雇用制度があると聞いた。ロシアとは非常に大きな差異があるようだ。まず、このような差異があることを講演の前提として話してもらうと、講演の内容をより良く理解できるのではないだろうか」、じつにもっともな提案でした。このときは5回目の出張でしたが、受講者からのこういう要請は初めてのことでした。休憩後、日本の企業経営の特長について終身雇用を主にしながら他にもいくつか説明しました。このときはモスクワでの開催で100名弱の参加でしたが、会場には異次元世界のことを聞くといった雰囲気がありました。

【3】カイゼン活動が熱心な企業は雰囲気が違う
講演終了後は、いつも地元企業の工場訪問がありました。訪問したのは製造業が主でしたがカイゼン活動をまだ導入していない企業もありました。改善活動は5Sから開始するわけですが、それを熱心にやっている企業と未導入の企業では現場の雰囲気がまるで違うのです。
カイゼン活動に熱心な企業の工場を訪問しました。案内役は工場長や製造部長でしたが、製造現場のリーダー自らが工場長や部長に対して気軽に声をかけるなどわが国と同じような雰囲気を感じました。講演事務局の日本人スタッフによると、ロシアでの一般的な労使関係は敵対的なのだそうです。もちろん、終身雇用などは無いとのことでした。

【4】カイゼン活動未導入の企業では
経営者の希望で未導入企業の工場を訪問したことがありました。整理・整とん以前の状態でした。工場見学に同行した本社スタッフは、つまづいて危うく転倒しそうになりました。不安全を通り越して危険箇所がいくつか目につきました。見学後、その企業の社長の要請で現場のリーダー20名ほどにカイゼン活動の目的などを説明しました。私語などは全くありませんでしたが、質問も無く終始冷ややかな視線を感じました。その後、社長との懇談の席で「カイゼン活動として、まずは職場の安全を追求するのがよいのでは」とアドバイスしました。従業員が安全とは言えない職場環境では仕事そのものに集中できないし、チーム活動などありえないと思ったからです。経営者としては生産性向上には大きな関心があっても、職場の安全にはさほどの興味は無いように感じました。

【5】全員が学び続ける 
ある中小企業の変身をテレビ番組で見ました。自動車用部品メーカーでは電気自動車の時代になったら、不要になる部品の製造ではやっていけなくなります。それでその企業はEV専用の部品メーカーに変身する決意をした。社長がそういうことに決めたら、従業員全員がそれについていくことにした、という内容でした。今までの経験は通用しなくなりますから、全員が全てを学ぶことから始まるわけです。改善活動には『経営による教育投資とそれに応える従業員』という重要な関係があります。事業内容が大きく変わるときでもこの関係性が有効に働いている、このテレビ番組を見て感じたことです。

終身雇用制度は法律で定められているわけではありません。廃止しても法的に問題は無いはずです。しかし、正社員の既得権益などという観点から廃止するのは余りにも軽率で論理的思考が薄弱です。廃止するなら、その目的を明確にする。そして、廃止の意味と価値を考えてみる。そのような意思決定のプロセスが欠かせないと考えます。