プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第102回 番外編

番外編(8) 目的の明確化、意味と価値を明らかにする

前回の番外編(7)では、この番外編の主題としてとり上げてきた論理的思考が円滑に行われるように、その場の空気を建設的に保つことを述べました。そのために我われ日本人の三大欠陥として、面子、前例主義、非合理性についての対処策などを説明しました。また、これからの時代に欠かせないビジネススキルとして対話力があること、そして、この対話力は話すことだけでなく聞くこととの組み合わせが重要になることを述べました。また、組織のトップリーダーに対する尊敬についてもとり上げました。
今回は、対話において論理的思考の前提になることはプロジェクトにおいてもそっくり同じであることを説明します。

【1】プロジェクトで最初にやるべきこと
何か問題を解決したいとき、あるいは課題を達成したいときにプロジェクト活動で対応することがよくあります。プロジェクトは目的・資源・納期が明確な環境のもとで実行されます。つまり、プロジェクト計画がきちんとできてから実行することになりますが、その前段階ではプロジェクトでやるという思いだけから開始することになります。例えば、社長が組織メンバーに対話力を身につけさせたいという強い思いがあったとします。思いを次のように三つの項目にわけて書いてみます。(以下は、対話力のテキストを参考にしています)

・目的の明確化・・そもそも対話力とは何か
対話力とは話し合いで両者の知識・経験のいいとこ取りができるスキル
・意味・・対話力を身につけるとどうなるのか
相手の観点を得ることで、より深く相手を理解し信頼関係をつくり上げる
・価値・・対話力を身につけるとどういう良いことがあるか
両者の観点を相互に往復しながら高いレベルで合意形成ができる

思いをもつ人がいろいろと語ってもらうと時間的に長くなる傾向があります。上記のようにしてもらうと受けとる方としては簡潔になり伝わりやすくなります。プロジェクト計画の前段階に、最小限、これがあるとチームは大いに助かります。つまり、論理的思考の前提として少なくともこの三つが欠かせません。

【2】DXをやりたい 論より証拠
DXがあたかも揺るがせない時代の潮流かのように語られています。確かに、コロナ禍によって一気に普及したテレワークのような動きもあります。テレワークは普及する相応の理由がもともとありました。時間や空間の削減や節約、勤務形態の柔軟性向上など経営者や従業員双方にとって大きなメリットがありました。筆者の見聞範囲でも生産性は大きく向上したと考えています。コロナ禍がきっかけとして普及に大きく寄与しましたが、きっかけが無くても時間の問題で普及したのではないでしょうか。
テレワークについては、論より証拠で判断できます。あせって急いで導入しなくても、他社の事例を参考にしながら現実を踏まえてから導入することで確実に成功させることができます。このときの注意事項があります。導入するツールは必要最小限とすることです。

【3】今そこにあるカイゼンと見えない将来のDXカイゼン
今そこにあるカイゼン
これは、従来の改善活動の延長上で取り組むことで何の問題も無いはずです。そもそもわが国の現場カイゼンは現場の創意工夫で成り立ってきました。デジタル機器に明るいメンバーがいれば活用します。そうでない場合は他社事例などを参考にすることもあるでしょう。

見えない将来のDXカイゼン
オンラインでの工場見学や電子商取引などは自社のビジネス形態や方針によって扱いが異なります。顧客がそれらを要請するか、または要請する顧客を積極的に開拓するのかどうかが問題になります。今すぐ必要としないのであれば、今は何もせず状況の推移を見守ることでよいのではないでしょうか。

【4】やるべきと確信したDXだけをやる
論理的思考をDXにどのように適用するかを述べてきました。ただ他社がやっているから、時代の潮流だからというだけで(そもそも時代の潮流と誰が言っているかが問題ですが)判断するのは論理的思考の結論としては全く迫力がありません。「これならやるべき」と確信したものだけをやる、これが筆者の結論です。

幕末の黒船来航(1853年)は当時の狂歌で「たった四盃で夜も寝られず」が流行したため、江戸庶民や幕府が狼狽しあわてふためいたように伝えられています。最近の研究では、江戸庶民は全くそのようなことはなく黒船見物を楽しんだそうです。そして、幕府の官僚たちもペリーとの交渉では論理的な矛盾をいちいち論駁しペリーも引き下がらざるを得ない場面が多かったということです。

DX化の潮流と黒船来航を一緒にするつもりは全くありませんが、知見の豊富な経営者は自社に適したDX化をきちんと進めています。知見が足りないようなら、それなりに学べばよいだけです。目的の明確化、意味と価値を明らかにすることはプロジェクトで最初にやるべきことですが、論理的思考の常識としても普及すべきと考えます。