プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第101回 番外編

番外編(7) その場の空気を建設的に保つ

前回の番外編(6)では、この番外編の主題としてとり上げてきた論理的思考がその場の空気とどのような関係にあるかをとり上げました。論理よりも空気に意思決定が左右されるわが国の状況について評論家山本七平はその著作「空気の研究」を発表しました。確かに我われには論理を超えてその場の空気に支配される傾向が強くあるように感じます。前回は平手打ちのような実力行使も空気を破る選択肢のひとつと述べました。しかし、これは一般的な解決策とは言えません。
今回はとくに会議などその場の空気についていかに建設的なものに保つかを考えることにします。

【1】我われ日本人の三大欠陥
会議や日常的な討議の場で、よく見られる我われの欠陥が大きく三つあるように思います。面子、前例主義、非合理性です。

面子(めんつ)にこだわるのは、面目や体面のためです。世間に対する体裁です。例えば、他人の意見に内心では賛成していても反論する。その理由は例えば、自分が言うべき立場なのに先を越されたということであえて反対する、などの行動が見られます。
前例主義はお役所の断り文句として知られていますが、企業でも見かけます。前例が無いからやらないということです。似たようなものに経験主義があります。経験の無いことはやらない。こちらのほうが、自己の経験に基づいていますから前例主義より多少は見込みがあります。ただ経験に固執すると、前例主義同様に有害です。
非合理性は、文字通り合理的で無いことです。リクツに合わないことを容認することがよくあるようだと、組織の規律は緩んでいきます。ただ、合理的という判断基準は時代と共に変化します。その判断に難しさがあります。例えば、新商品開発について合理性の判断はきわめて難しい。海のものとも山のものともわからないものについて判断を迫られることもあります。

【2】それぞれの対処策
解決策というより、対処策について述べます。

面子へのこだわりを解消するには、課題の目的について説明しそこを確認することが欠かせません。思い違いや誤解があるかもしれません。あとは、体裁をどう取り繕うかをサポートすることもあります。似たようなことが繰り返し起こることを防止するため、会議の目的を理解しやすくする工夫が必要になります。
前例主義を克服することはけっこう難しいと思います。わが国宇宙開発の父と呼ばれた糸川英夫(1912年~1999年)の著書に「前例がないからやってみよう」があります。この一文は正しい論理を示しています。この本の一節に次のようなことが書いてありました。ロケット開発予算の大蔵省(財務省)への申請書に「このロケットプロジェクトが失敗する100の要因」をびっしり書いた(うまくいくとは全く書いてない)。審査官は「そこまで調べておられるなら大丈夫でしょう」とあっさりパスしたとのこと。前例主義をクリアした一例です。
非合理性、合理的でないことを排除することは論理的思考の延長上だけでは難しいと思われます。論理とは別に企業理念などが必要になるでしょう。よく知られたわが国の「三方良し」も企業理念のひとつですが、これはわが国で共通の企業理念として確立するほどには普及していません。他の一例としてソニー創業者井深大による「設立趣意書」や「・・愉快ナル理想工場」などは、まさに企業理念の優れた典型と言えます。

【3】建設的な空気のための対話力
本稿のタイトル「その場の空気を建設的に保つ」ために、ビジネススキルとして対話力が役立ちます。対話に類するものとして、プレゼンやディベートについては従来から様ざまな取り組みがありました。プレゼンについて言えば、筆者は研修講師としてその訓練を重ねました。次に、ディベートについてはわが国のビジネス環境においては有用ではないと考え一切手をつけませんでした。
ビジネススキルとしての対話力は、前二者に対して新しいスキルです。筆者はこれから求められるスキルは対話力であると考え学び始めました。多数が集まる会議からたった二人の対話まで、場の空気を建設的に保つために有用なスキルと言えます。

【4】トップリーダーへの尊敬
企業理念については読者の皆さまの企業にも必ずあると思います。これを補完するために組織トップへの尊敬について述べます。米国のようなボート経営トップにおいて権限は集中していても、従業員のトップに対する尊敬が集中しているわけでは無いと思います。また、トップも尊敬を要求することは無いでしょう。
わが国はそもそもおみこし経営ですから、トップは担がれている状態です。行くべき方向はあちらだと指示しても、なかなかそのとおりに動かない担ぎ手もいるでしょう。そのような仕組みにおいても、トップに対する従業員からの尊敬は建設的な空気の維持や企業全体にとって良いことに違いありません。意識して行動して必ずしも得られるものではありませんが、企業トップの課題のひとつと思われます。