虫の眼・魚の眼・鳥の眼 第8回:箸でハエを捕まえられますか?(その2)

ハエの眼は人間の10倍以上の速度で見ることができる

さてハエを両手でも簡単に掴めないのは、ハエが危険を感じ取る時間の問題がありそうです。ハエの眼が感じる速度は、人間の10倍以上もあるようです。ハエから見ますと、まるでスローモーションのように大きな手は団扇をゆっくりとヒラヒラと扇ぐようにしている動作に見えるのですから、ゆっくりと離着準備をして飛び立てばよいのです。人間はハエを発見するという、眼から入ってくる情報を脳でいったん判断して、手や腕に動作信号を出して叩くという動作までの時間は0.2秒以上になっています。ハエは危険を感じて離着準備して飛び立つまでの時間は、それ以上に非常に短いのです。それはハエの時間分解能力が人間の10倍以上もあるためのようです。人が叩くと身構えた瞬間にハエはその殺気を感じ取って、既に臨戦態勢になっているのです。
 
ハエを退治するためには、ハエの反応速度つまり離着準備時間以下での対応が迫られます。良く使われているのがハエタタキですが、その叩く部分の速度はどれくらいでしょうか?残念ですがそのような文献はありませんでしたが、エアガンや輪ゴム銃での速度のデータはありました。それらはおよそ15m/秒(時速54km)でした。指で輪ゴム銃を作って発射しますと、ほぼ100%の命中率ですので、ハエタタキもほぼ100%の命中率ですので、その程度の速度を考えられます。でも完全に粉砕した時の後始末は大変ですね。ちなみにピストルの発射速度は約時速1000kmで、ライフルですとその3倍の約3000kmになります。
 
 

高速度カメラやスロー再生のビデオを活用する

相手が素早い動きをして見ることができなくても、やり方をちょっと変えることで見なかったことも見えるようになるものです。写真やビデオさらには高速度カメラといった機材を使うことで、スロー再生や瞬間の映像を見ることができます。それは原因追究の良い発見方法になります。人間の見える速度に直してやれば、見えなかったことが見えるようなると原因も究明できます。
 
半田ロボットのサイクルタイムがタクトタイムの要求に間に合わなくなったことで、半田ロボットの追加購入の要求が出てきました。お金を使わないで解決する方法はないものかと、現場に出向きロボットの動きを見ました。かなり高速で動いていてサイクルタイムの観測しかできませんでした。そこでビデオを使ってロボットの動きを観察してみますと、ムダを一気に発見することができました。基盤の上に半田付けされる電子部品の高さは最大5mmですが、ロボットの半田コテの上下の動きはなんと30mmもあったのです。つまり一回の半田付けに、往復で50mm以上のムダな動きを発見することができたのです。対策として、22mmのカラーを半田コテのシリンダーにはめ込み、60mmの動きを16mmに削減したのです。これでサイクルタイムは半減してしまい、結局1台のロボットも購入しなくて済んだのです。
 
ビデオのスロー再生機能を使うことで、素早く動きをゆっくりと観察することで、見えなかったムダを発見することができたのです。ムダが見えないと改善はできないものですが、ムダを見えるようにすることで改善は一気に進めることができます。素早い動きには、ゆっくりと見る方法を考えることです。人間の眼の能力に合わせて、観察する速度調整をするというフレキシブルな考えを持ちたいものです。